国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

帰宅

「メアリ! 心配したのよ!」
「お母様、ごめんなさい」

 ようやく六時間振りに許された我が家の前で母が心配して待っていてくれた。嬉しくも申し訳なくて謝っていたら、中から父も出てきた。

「メアリ……よかった」

 父に抱きしめられる。なんだか涙が出そうになった。もうあのまま帰れないと思ったのだ。

「ただいま帰りました。あの、二人に伝えないといけないことがあって」
「なんだ? 悪いことじゃないといいが」

 外出中に起きた出来事を二人に話す。まだ自分でもよく分かっていないところがあってところどころ曖昧になってしまったが、だいたいのことは伝わったらしい。父が顔を青ざめさせる。母など地面に膝をついてしまった。慌ててメアリが倒れないよう体を支える。

「それは、大変な不運に出会ってしまったね……ついに我が子が……」
「おお、世界を統べる神なる神よ。何故私の愛し子を……」

 あまりの落胆ぶりに、メアリが混乱する。リリィの妹の振りをすることが、人生に一度訪れる超絶不運だということなのだろうか。
 確かに驚きはしたが、パーティーの時に妹としていてくれればいいと言われただけなので、メアリには不運だとは思えなかった。

「よく聞いてくれ。メアリ」
「はい」

 父の言葉に姿勢を正す。

「週末のパーティーに妹が必要ということは、きっと王族の方とのお約束の件だと思う」
「お約束とは?」
「そこで、第二皇子のジューク様との婚約発表がされるらしい」
「婚約?」

 つまり、リリィと第二皇子との婚約ということだろう。婚約は素敵なことだ。何をそんなに絶望しているのか、メアリには分からなかった。

「私たちには関係のなさそうなことですが」
「いや、そのパーティーだけ妹の振りをしてくれなんて怪し過ぎる。それに、まだ決まっていないのだ。第二皇子の兄、つまり第一皇子、ロイン様の婚約者が」

 そこまで言ったところで、父が呻き声を上げた。

「うぉおおお……第二皇子の婚約者家族ともなれば、パーティーの前に王族との挨拶もあるはずだ。もし第一皇子がメアリを見染められたら……そんな不吉な!」

 あまりの動揺っぷりにメアリは言葉を失った。第一皇子と言えば、皇帝の次に権力のある人物、未来の皇帝。それなのにここまで避けられているのは一体何故なのだ。

「絶対、絶対に第一皇子とは会わないように、は難しいだろうが、出来る限りリリィ嬢の後ろに隠れるのだぞ。そうだ、この扇子で顔を隠しなさい」
「は、はい」

 些か心配性過ぎる気もするが、世間に疎いメアリよりは王族事情に詳しい父に同意するしかない。おとなしく扇子をもらい、顔を隠す。このままメアリという存在を隠して騒動の傍観者になれたらいいのに。そんなささやかな願いが叶うことはなかった。
< 4 / 42 >

この作品をシェア

pagetop