国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
援護
「大変。ロイン様、足元にいるリスが新種の魔物かもしれません。お気をつけろ」
「メアリ、それでは聞こえないぞ。しかもバレたら困るのだろう」
「はッそうだった」
メアリがやや慌てた様子でブラックローズに変身し、ロカロスの世界を通り、ロインたちから少しだけ距離を取った場所に身を隠した。ここからだと一行の姿はほとんど見えない。
「これだけ離れていれば気付かれないわ。問題はどうやってリスが魔物だと知らせることね」
ここまでやってきてようやく気付いたが、王都から離れたこの地で王都で見かけた謎の魔術師がいたら、たとえ姿を変えていても怪しまれて正体を見せろと言われるかもしれない。
「迂闊だったわ……」
そのため、今回は姿を見せずに援護しなければならない。小さなロカロスがブラックローズの頭上をふよふよと回る。
「どうするのじゃ」
「そうね、まずはリスが魔物だって分かればいいのだから」
メアリが落ちていた葉に魔力を込め、そっとロインたちの方角へ飛ばす。そしてそれがリスの足元に落ちたところで呪文を唱えた。
「特殊光」
一瞬だけ足元が光、ロインがそちらに顔を向けた。光に驚いたリスの顔が歪み、頭からは角が飛び出していた。
「ノウ! 魔物だ!」
「はッ」
ノウがすぐさま魔法の網をリスへ向かって投げる。リスがムクムクと大きくなり、やがて二メートル近くの大きな魔物へと変化した。リスの面影はなく、尖った針のような毛をした三つ目の魔物だ。
「メアリ、私の葉ではなくとも出来るようになったのか」
「うん、筋トレも欠かさずやって魔力が増したから」
「それはすごい」
寝る前の筋トレは今も欠かさず行っている。何気なく始めたトレーニングだが、蓄えられる魔力の量が増えることを実感でき、続けていてよかったと思っている。
「今は魔物よ。かなり強力そう」
網の中にいる魔物は遠くにいる二人に分かる程強大な魔力を放っている。緊張した表情の一行に、メアリも拳を握る。
ノウが空に向かい、閃光弾を打つ。間もなくして、遠くから馬の音が近づいてきた。
「ジューク様を呼んだんだわ」
ほっとしたのもつかの間、リスだった魔物が力強い爪で網を引き裂いた。
「まさか、魔力がかけられた網をいとも簡単に」
ノウが驚きの声を上げる。騎士団が攻撃に備え、剣を構えた。
「間に合わないッ」
メアリが両手を翳した。
「防壁」
すると、一行を覆うように透明な薄い壁が現れた。目を凝らさなければほとんど見えない。しかし、ノウは瞬時に何が起きたのか理解した。
──何者だ?
周囲を警戒するが、魔法壁が出来たこと以外何も起きない。ノウが騎士団に指示を出した。
「魔法壁が私たちを覆っています。今のうちに魔物に攻撃を、特に足を狙ってください」
「承知!」
騎士団の弓矢が魔物に向かって放たれる。それは魔物に刺さることなく落ちていった。次に、壁ギリギリに立った騎士団が剣を足に向けて突き刺そうとする。それもかすり傷にしかならず、魔物の固さが窺えた。魔物が壁を叩いて壊そうとする。
「剣と弓矢を強化します!」
強化魔法をかけ、再度攻撃を始める。ようやく一人の剣が足に刺さった。
『ギャォォオ!』
痛みに魔物が暴れ、壁の一部が崩壊した。そこへジュークたちがやってきた。
「お待たせしました!」
「魔術師先導でそっちもすぐに攻撃を開始しろ!」
「はい!」
全員が魔物を取り囲み攻撃をし続ける。やがて魔物が力尽き、その場に倒れ込んだ。
「はあッ……やったのか……?」
ロインの言葉に魔術師が生命反応を確認し、完全に息絶えたことを報告した。
「ああ、想像以上に大変な魔物だった」
騎士団たちが思わず座り込んだことで、どれだけの戦闘だったかが分かる。
「皆さんご苦労様でした。魔物に縮小魔法をかけて袋に入れましょう」
ノウが部下に指示を出しながら後ろを振り返る。
──それにしても、先ほどの魔法壁はいったい誰が……こんな山奥に私たちの味方をする者がいるなんて。
万が一恩に着せるような厄介な人間だったら大変だ。魔力の元を感知しようと注意深く視線を送ったが、魔力のカスすら残っていなかった。残念ながら一足早くその人物は姿を消してしまったらしい。
「まあ、もう出会うこともないでしょう」
「ノウ、準備が整い次第帰還するぞ」
「承知しました」
ロインが袋をノウに預け馬に乗る。
「ロイン様、ジューク様は移動魔法で先に戻られますか?」
「いや、一緒に戻ろう。ジュークは?」
「僕も一緒で問題ありません」
「承知しました」
ノウが魔力検知機を木の根元に設置したところで今日の任務は終了となり、一行は王都へと馬を走らせた。
「メアリ、それでは聞こえないぞ。しかもバレたら困るのだろう」
「はッそうだった」
メアリがやや慌てた様子でブラックローズに変身し、ロカロスの世界を通り、ロインたちから少しだけ距離を取った場所に身を隠した。ここからだと一行の姿はほとんど見えない。
「これだけ離れていれば気付かれないわ。問題はどうやってリスが魔物だと知らせることね」
ここまでやってきてようやく気付いたが、王都から離れたこの地で王都で見かけた謎の魔術師がいたら、たとえ姿を変えていても怪しまれて正体を見せろと言われるかもしれない。
「迂闊だったわ……」
そのため、今回は姿を見せずに援護しなければならない。小さなロカロスがブラックローズの頭上をふよふよと回る。
「どうするのじゃ」
「そうね、まずはリスが魔物だって分かればいいのだから」
メアリが落ちていた葉に魔力を込め、そっとロインたちの方角へ飛ばす。そしてそれがリスの足元に落ちたところで呪文を唱えた。
「特殊光」
一瞬だけ足元が光、ロインがそちらに顔を向けた。光に驚いたリスの顔が歪み、頭からは角が飛び出していた。
「ノウ! 魔物だ!」
「はッ」
ノウがすぐさま魔法の網をリスへ向かって投げる。リスがムクムクと大きくなり、やがて二メートル近くの大きな魔物へと変化した。リスの面影はなく、尖った針のような毛をした三つ目の魔物だ。
「メアリ、私の葉ではなくとも出来るようになったのか」
「うん、筋トレも欠かさずやって魔力が増したから」
「それはすごい」
寝る前の筋トレは今も欠かさず行っている。何気なく始めたトレーニングだが、蓄えられる魔力の量が増えることを実感でき、続けていてよかったと思っている。
「今は魔物よ。かなり強力そう」
網の中にいる魔物は遠くにいる二人に分かる程強大な魔力を放っている。緊張した表情の一行に、メアリも拳を握る。
ノウが空に向かい、閃光弾を打つ。間もなくして、遠くから馬の音が近づいてきた。
「ジューク様を呼んだんだわ」
ほっとしたのもつかの間、リスだった魔物が力強い爪で網を引き裂いた。
「まさか、魔力がかけられた網をいとも簡単に」
ノウが驚きの声を上げる。騎士団が攻撃に備え、剣を構えた。
「間に合わないッ」
メアリが両手を翳した。
「防壁」
すると、一行を覆うように透明な薄い壁が現れた。目を凝らさなければほとんど見えない。しかし、ノウは瞬時に何が起きたのか理解した。
──何者だ?
周囲を警戒するが、魔法壁が出来たこと以外何も起きない。ノウが騎士団に指示を出した。
「魔法壁が私たちを覆っています。今のうちに魔物に攻撃を、特に足を狙ってください」
「承知!」
騎士団の弓矢が魔物に向かって放たれる。それは魔物に刺さることなく落ちていった。次に、壁ギリギリに立った騎士団が剣を足に向けて突き刺そうとする。それもかすり傷にしかならず、魔物の固さが窺えた。魔物が壁を叩いて壊そうとする。
「剣と弓矢を強化します!」
強化魔法をかけ、再度攻撃を始める。ようやく一人の剣が足に刺さった。
『ギャォォオ!』
痛みに魔物が暴れ、壁の一部が崩壊した。そこへジュークたちがやってきた。
「お待たせしました!」
「魔術師先導でそっちもすぐに攻撃を開始しろ!」
「はい!」
全員が魔物を取り囲み攻撃をし続ける。やがて魔物が力尽き、その場に倒れ込んだ。
「はあッ……やったのか……?」
ロインの言葉に魔術師が生命反応を確認し、完全に息絶えたことを報告した。
「ああ、想像以上に大変な魔物だった」
騎士団たちが思わず座り込んだことで、どれだけの戦闘だったかが分かる。
「皆さんご苦労様でした。魔物に縮小魔法をかけて袋に入れましょう」
ノウが部下に指示を出しながら後ろを振り返る。
──それにしても、先ほどの魔法壁はいったい誰が……こんな山奥に私たちの味方をする者がいるなんて。
万が一恩に着せるような厄介な人間だったら大変だ。魔力の元を感知しようと注意深く視線を送ったが、魔力のカスすら残っていなかった。残念ながら一足早くその人物は姿を消してしまったらしい。
「まあ、もう出会うこともないでしょう」
「ノウ、準備が整い次第帰還するぞ」
「承知しました」
ロインが袋をノウに預け馬に乗る。
「ロイン様、ジューク様は移動魔法で先に戻られますか?」
「いや、一緒に戻ろう。ジュークは?」
「僕も一緒で問題ありません」
「承知しました」
ノウが魔力検知機を木の根元に設置したところで今日の任務は終了となり、一行は王都へと馬を走らせた。