国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
リリィの告白
「ごきげんよう、メアリ!」
週末、約束通り、ではなく、約束より大分早い時間にリリィが迎えにやってきた。ローリアス家と従者総出で出迎える。スオン家から挨拶状は送られていたが、会うのは初対面振りだ。
「リリィ・スオン様。わざわざ辺境までお越し頂き、誠に恐縮で御座います」
父と母が複雑な思いで挨拶をする。彼女に恨みはない。あるとすれば、自身の不運体質のみだ。
「お顔を上げてください。こちらこそ、このたびは私の我儘を聞いて下さり、感謝の仕様がありません」
「とんでもない。ただ、私の娘はまだ世間知らずでして、リリィ様のご期待に添えられるかどうか」
そこはかとなく、当たり障りない程度に拒否の姿勢を見せてみるが、リリィは全く気が付いていないようだった。
「問題ありません。メアリは見目も美しく、性格も謙虚で素晴らしい女性ですわ」
「そうですか」
これはもう一日我慢する他無い。そもそも、第一皇子とメアリがパーティー以外の場で会うかどうかも決まっていない。リリィが何かの事情で今日だけ妹が欲しいだけかもしれない。メアリは憶測だけで怖がることを止めた。
「それでは皆様。一足先にメアリと準備して参ります。今夜、会場でお会い致しましょう」
「はい。娘がお世話になります」
小さな声で両親に謝られる。メアリは申し訳なくなった。これは自分が出歩いたために起こったことだというのに。こうして、メアリの長い長い超絶不運の一日が始まった。
一時間近く馬車に揺られ、先日と同じく手を繋がれスオン家の屋敷に入る。メイドが数人現れ、あれよあれよという間にパーティー用のドレスに着替えさせられた。
「リリィ様、メアリ様、お支度整いました」
「ありがとう。下がって」
「有難う御座います」
部屋を出ていくメイドにメアリは軽く会釈した。振り返ると、ドレス姿のリリィが瞳をキラッキラにさせていた。
着せられたドレスは、淡いピンクに細やかなレースがあしらわれ、スカートもボリュームたっぷりで重いくらいだ。リリィも似たようなデザインの青いドレスだった。リリィがメアリをギュウギュウに抱きしめる。
「可愛い! 素敵! 似合っているわ!」
「く、くるしい」
「あら、力加減が。大丈夫?」
「はい……リリィ様も素敵です」
「ありがとう。今夜はリリィではなく、お姉様と呼んでね?」
「はい、お姉様」
メアリのお姉様呼びが気に入ったらしく、再度抱きしめられた。苦しい。
「お姉様、一つ宜しいでしょうか」
息苦しい中、精いっぱい落ち着いた声を出す。リリィがぱっと体を離した。
「なんですの? 一つどころか十でも百でも言って?」
まだ会ってから二度目なのに百も聞くことはない。メアリは姿勢を正し、今度こそリリィに尋ねた。
「事情があって今日だけ妹になることは承知しました。その理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
それを聞いたリリィが目を丸くさせた。やはり聞いてはいけない深い理由があるのだろうか。失敗した。メアリが自身の失敗を責めていると、リリィが目の前で手を叩いた。
「まあ、申し上げてなかったかしら。言い忘れていたわ」
言い忘れていただけだったらしい。近くにあるベッドに腰掛けたリリィがメアリを手招きする。おずおずと隣に座り、続きを待った。
「ごめんなさいね。詳しく説明していなくて」
「いえ、そんなことはありません」
「実は……私は元々第一皇子の許嫁だったの」
「え!」
大きい声が出てしまった。
だって仕方がない。リリィが、一介の貧乏貴族が知ってはいけないような重大事項をさらっと告白したのだ。メアリはベッドから転げ落ちるかと思った。
週末、約束通り、ではなく、約束より大分早い時間にリリィが迎えにやってきた。ローリアス家と従者総出で出迎える。スオン家から挨拶状は送られていたが、会うのは初対面振りだ。
「リリィ・スオン様。わざわざ辺境までお越し頂き、誠に恐縮で御座います」
父と母が複雑な思いで挨拶をする。彼女に恨みはない。あるとすれば、自身の不運体質のみだ。
「お顔を上げてください。こちらこそ、このたびは私の我儘を聞いて下さり、感謝の仕様がありません」
「とんでもない。ただ、私の娘はまだ世間知らずでして、リリィ様のご期待に添えられるかどうか」
そこはかとなく、当たり障りない程度に拒否の姿勢を見せてみるが、リリィは全く気が付いていないようだった。
「問題ありません。メアリは見目も美しく、性格も謙虚で素晴らしい女性ですわ」
「そうですか」
これはもう一日我慢する他無い。そもそも、第一皇子とメアリがパーティー以外の場で会うかどうかも決まっていない。リリィが何かの事情で今日だけ妹が欲しいだけかもしれない。メアリは憶測だけで怖がることを止めた。
「それでは皆様。一足先にメアリと準備して参ります。今夜、会場でお会い致しましょう」
「はい。娘がお世話になります」
小さな声で両親に謝られる。メアリは申し訳なくなった。これは自分が出歩いたために起こったことだというのに。こうして、メアリの長い長い超絶不運の一日が始まった。
一時間近く馬車に揺られ、先日と同じく手を繋がれスオン家の屋敷に入る。メイドが数人現れ、あれよあれよという間にパーティー用のドレスに着替えさせられた。
「リリィ様、メアリ様、お支度整いました」
「ありがとう。下がって」
「有難う御座います」
部屋を出ていくメイドにメアリは軽く会釈した。振り返ると、ドレス姿のリリィが瞳をキラッキラにさせていた。
着せられたドレスは、淡いピンクに細やかなレースがあしらわれ、スカートもボリュームたっぷりで重いくらいだ。リリィも似たようなデザインの青いドレスだった。リリィがメアリをギュウギュウに抱きしめる。
「可愛い! 素敵! 似合っているわ!」
「く、くるしい」
「あら、力加減が。大丈夫?」
「はい……リリィ様も素敵です」
「ありがとう。今夜はリリィではなく、お姉様と呼んでね?」
「はい、お姉様」
メアリのお姉様呼びが気に入ったらしく、再度抱きしめられた。苦しい。
「お姉様、一つ宜しいでしょうか」
息苦しい中、精いっぱい落ち着いた声を出す。リリィがぱっと体を離した。
「なんですの? 一つどころか十でも百でも言って?」
まだ会ってから二度目なのに百も聞くことはない。メアリは姿勢を正し、今度こそリリィに尋ねた。
「事情があって今日だけ妹になることは承知しました。その理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
それを聞いたリリィが目を丸くさせた。やはり聞いてはいけない深い理由があるのだろうか。失敗した。メアリが自身の失敗を責めていると、リリィが目の前で手を叩いた。
「まあ、申し上げてなかったかしら。言い忘れていたわ」
言い忘れていただけだったらしい。近くにあるベッドに腰掛けたリリィがメアリを手招きする。おずおずと隣に座り、続きを待った。
「ごめんなさいね。詳しく説明していなくて」
「いえ、そんなことはありません」
「実は……私は元々第一皇子の許嫁だったの」
「え!」
大きい声が出てしまった。
だって仕方がない。リリィが、一介の貧乏貴族が知ってはいけないような重大事項をさらっと告白したのだ。メアリはベッドから転げ落ちるかと思った。