国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

皇子到着

 二時間後、メアリはリリィ家族と一緒に屋敷の前で待っていた。パーティーより前に王族との挨拶があるためだ。この二時間で簡単な作法は学んだが、はっきり言って不安しかない。ぶるぶる震えていると、リリィに優しく手を握られた。

「大丈夫。心配しなくても、メアリは立派な淑女でしてよ」
「有難う御座います」

 先ほど初めて会ったリリィの父親も無言で頷いてくれた。彼はかなりの高身長で恰幅も良く、さらに無表情無口ときた。最初の「いらっしゃい」以外、まだ彼の声を聞いていない。態度から察するに優しいらしいので、大人しく彼の義娘として横に立っている。

「今日はロイン様とジューク様お二人でいらっしゃいます。リリィ、メアリ、にこやかにおもてなしをお願いしますね」
「分かりましたわ」
「はい、お母様」

 親子らしくお母様と呼んでみたら、リリィの母に抱きしめられた。リリィと同じで距離感がバグっている。しかし、こうしてスオン家と触れ合い、どうにか緊張が解けてきた。ただ、まだ第一皇子と顔を合わせる勇気までは足りない。

 何故リリィは第一皇子ではなく第二皇子を選んだのか、何気なく聞いたことを後悔した。いっそ何も知らず、この謁見に臨めばよかった。

『なんでジューク様の方がよかったって? だって、ロイン様はカリス国一冷徹とのお噂なんだもの。避けるのは当然じゃなくて?』

 リリィの言葉が頭の中で反芻し、メアリは身震いした。
 国で一番冷徹だなど、恐ろしくて逃げ出したくなる。しかし、これは自分でやると決めたこと。リリィたちの立場を守るためにも完遂しなければならない。遠くから響く蹄の音に、メアリは仮のスオン家として鉄の仮面を被った。

「ようこそお越しくださいました。ロイン様、ジューク様」
「うん。ありがとう」

 スオン家と従者たちが並び、二人を出迎える。出てきた二人は対照的で、皆に手を振り挨拶をするジュークと違い、ロインは目線を向けるのみだった。すでに怖い。

 見た目に関しても、兄弟は正反対だった。ロインは暗い青色の髪と、やや吊り上がった意思の強そうな瞳をしている。ジュークはというと、明るい栗色の髪に、柔らかなたれ目の持ち主だった。兄弟でこうも違うものか。これを見た後では、リリィとメアリの方がよっぽど姉妹らしいと思う。

 ロインは美青年だが冷徹であるという前情報があると、二人のどちらかに嫁がなければならないのなら、ジュークを選んだリリィの気持ちも理解出来る。

「…………」

 そんなロインと目がばっちり合ってしまった。慌ててお辞儀し直す。深々頭を下げているため、彼が今どんな顔をしているかは分からない。不快感を示していないことを願うばかりだ。

「こちらへどうぞ」

──お父様がお話しに!

 寡黙な義父が皇子たちに話しかけたものだから、驚きの余り顔を上げてしまった。ロインたちが義父を見ていてほっとした。これで第一関門突破である。リリィの両親とともに歩き出した皇子たちの後ろをリリィと付いていく。その後ろにはそれぞれの従者と、行列になって屋敷の中に入っていった。
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