国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

未来の家族

──なんだかずっと見られているのですが……!

 大広間に入り、お互い席に着いたのはいいが、ロインの視線が完全にメアリを突き刺している。居たたまれない、何か気付かない間に粗相をしてしまったのだろうか。さっそくスオン家の足手まといになった可能性が出てきて、ずっと冷や汗が止まらない。

 これではスオン家に迷惑がかかってしまう。頼まれたことでも、請け負ったからには最後までしっかり全うしなければならないのに。
 表面上だけでも平気そうな顔をする。

──私はスオン家私はスオン家。リリィ様の立派な妹でいなければ!

 テーブルの下で両手を絡め、メアリはどうにかぎりぎりの糸を繋いだ。早く終わってほしいと願うが、まだこの挨拶は始まったばかりである。

「それでは、まずはジューク様、リリィ、ご婚約おめでとう御座います」

 空気を読んだ義母が明るい口調で二人を祝福した。それを合図に部屋にいる者が拍手し、ジュークとリリィが立ち上がった。

「どうもありがとう」
「有難う御座います」

 和やかなムードになり、メアリの気分も浮上した。

「僕たちが結婚すれば、皆家族となる。仲良くしたいと思っているので、今度は王宮に遊びに来てくれると嬉しいな」
「とんでもないお言葉恐縮です。是非宜しくお願い申し上げます」

 リリィだけではなくスオン家にも気を遣ってくれて、ジュークは本当に優しい男だ。彼を婚約者に選んで、リリィは正解だったと思う。

 二人が座ると、軽食と飲み物が出される。歓談の時間だ。両親が手を付けるのを確認して、メアリもカップを持ち上げる。

それ(・・)が妹か」

 瞬間、ロインの冷たい声が届いた。音を立てないようカップを置き、立ち上がる。

「お初にお目にかかります。メアリ・スオンと申します」
「……」

 話しかけられて挨拶をしたのだから何か反応してほしい。愛想笑いが剥がれるぎりぎりで、隣のジュークがメアリに笑いかけた。

「メアリか。良い名前だね。これからは君の兄だ、仲良くしてね」
「はい。宜しくお願い致します」

 メアリがようやく胸を撫で下ろす。これで肩の荷が下りた。挨拶も済んだし、後はパーティーを無事やり過ごせばいい。リリィとジュークの会話に相槌を打ちながら、メアリは必死にロインの視線から耐えた。

 そろそろ両家の語らいも終わりかというところで、ロインが動いた。

「メアリ」
「はいっ」

 まさか話しかけられるとは思わず立ち上がってしまう。恥ずかしくなってすぐ座り直したが、ロインはなおもメアリを見つめ続けている。

「いいな」
「え、と」
「いいな?」
「は、はい」

 主語も何もなく同意を求められ、しかし内容を詳しく聞くことが出来る仲でもなく、半ば強制的に頷かされてしまった。なんとなく満足気な顔でロインがメアリから視線を外す。結局何の話なのか分からないまま、挨拶の場は終了した。
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