両片思いだったのに略奪されて溺愛されました
「苦手な相手に苦手と言って楽しいとは、中々の性悪ですよ」
「苦手なだけで嫌いとは言ってないじゃん」
「そういうのは屁理屈です」
「えー!屁理屈って楽しい!!」
くだらない会話で、特に中身もないけど。
ここ最近の沈んだ伊藤さんしか見たことのなかった俺は、まあ本人が楽しそうならいいか、と思った。
そして案外早く伊藤さんのマンションに着いたので、やっとこの人の介護から解放されると思ったその時だった。
「伊藤さん、鍵ありますか?」
「鍵?ちょっと待ってね」
鞄から鍵を取り出そうとしている伊藤さんの身体がふわふわと揺れている。
手を出そうなんて思ってないからいいけど、冷静に考えてこのシチュエーションは、単純に危機管理能力が無さすぎて心配になる。
この人、隙だらけじゃないか?
「なんで坂口がいんの?」
背中から怒った声がして、振り向くとそこには水嶋さんがいた。