男たちの、本懐。
3 episode.
「飯」
「…」
「腹が減った」
「…ちゃんとあげたじゃないですか、さっき、」
「今作ってるのは何だ」
「"私、の"。朝ご飯の目玉焼」
「食う」
「…………は?」
────ピキィッ。目の前の少女が青筋を立てた面持ちは理解しているが
空く腹は理性では
どうともできん。
そんなふうに開き直って
物置き倉庫の靴棚に踏ん反りかえった姿で意見する、季節はずれの
格好をした無礼な男。
その彼を見下ろしながら口を開いた少女は一際、めんどーそうに一言。
「…私、朝ご飯食べてないんですよ」
「だから何だ」
「貴方のそのケガの包帯とか血濡れた服を洗ったりとかその間に『寒い』って言うからおじいちゃんの要らない服持って来てあげたりとか貴方の朝食の準備とか、その他諸々してて。
…で、
今から朝ご飯なんですね」
「ああ、だからソレがどうした」
「あのねぇ。だから、」
「…寒いだろ。ドア閉めろ」
____っ、こんっの我儘横柄男がっ!!!
怒鳴りつけてやりたい!!いい加減に出て行ってほしい!!!何なんだ
居座っちゃってコイツは!!!!
そう心中、沸々と込み上げてくる苛立ちがそろそろ沸点に達しそうになるも、
ココで怒鳴り散らせば
負けた気になって癪である。
平静を装わなければ、そうだ、
一々、相手にしている時間すら惜しい。
少女は、癇癪的になりそうな心持ちを何とかグッと堪え
倉庫の扉を閉めると
持ち寄った消毒液片手に、「…ちょっと、早く。脱いでください。消毒しなきゃいけないんで」と淡々、指示を出した。
「…脱ぐのか」
「あたりまえでしょ。どうやって消毒しろって言うんですか」
「抱かれ待ちしてんのかと」
「誰が血まみれのケガ人に抱かれたいって?早く、」
「今なら寝込み襲われてもコロしはしねぇ、」
「あの!女相手にそーゆーコトしか頭に無いんですか?」
まったくどんな人間関係のなかで生きてきたんだこの男は。────否、たしかに。
抉れた肉の裂け目を見ていなければ極めて、人外的美貌ではあるはず、
・・・・・だが。
いかんせん、一般に暮らしてきた少女にとっては男の品格や外見よりも、
腹部の肉が抉れ穴が開いている衝撃的
絵面のほうが印象深いようで未だその余裕すら無い模様である。