男たちの、本懐。
これまで、"女"という生き物と対等に、口喧嘩はおろか、まともに会話という名の『対話』をした試しが一度たりとて無い────否、
厳密にいえば、
(母親と実妹、幼少期の頃より付き合い(締結)のある財閥グループをのぞいて、
という形ならば)細々とあるにはあるが。
ウォン一族を前にした"女"という生物は一般市民、富裕層、問わず金目や名声をエサに、取り縋る者たちが大半であった。
ゆえに、この目の前の少女の(じゃっかん、挙動不審ではあるものの)まれに見る動向には驚きを隠せないのも、本当のところではある。
怪我を負い、身を隠し、どこのダレとも認知されていない身元不明な、しかも実弾を装填した拳銃をふところに隠しもつ
男が。
一般市民の一軒家の倉庫内にもぐり込んでくればふつう、もう癇癪をおこしバレても
おかしくは無いはず____…、
「……、で、でき。た…?」
「…」
────…少女の黒髪の、小さなつむじを眺めながら
そんな物思いに耽っていた男は。
ちいさく響いた彼女の、女性にしては低めの了承の声とともに視線を
自身の半身にさげる。
キュ、と腸あたりに締めつけが走り、控えめでありながらもそこそこに丁寧に巻かれた白地の包帯。
やや緩く締められているのは慣れていないせいもあるだろう。
いまも、包帯片手に救急箱へと片していく細い背中は、何かを大きく背負っているようにも映り、
「…ずいぶん、割り切りが良いんだな」
────そう、他意はなく投げかけてみる事にした。
特別な意図は無い。
ただの、ヒマツブシだ。
曲がりなりにも手当てをしてくれている分の、礼として。
「…何が?」
ふい、とこちらにまるい顔を向けたオンナは心底、怪訝な表情をつくってそう、たずね返す。
あいかわらず、その黒曜石らしい両眼にはうっすら涙を蓄えたままだが、真っ直ぐに見つめかえしてくる眼差しはどこまでも澄んでいて愚直で、悪意も無く。
色事や権力を強いられる事の多かったカーフェイにとっては希少で、至極、居心地がよかった。
「…血濡れた男の言うことを聞くのか?フツーは」
「…いや、」
「銃も向けられたんだぞ」
「……そ、れは」
「こっちは怪我人なんだ、いざとなればお前のような小娘でもどうとでも出来る」
「……あぁ、そう、ですか。それは、気づかなかった」