男たちの、本懐。
カーフェイの言葉にぐるん、瞳孔を一周させた少女はふむふむ、と納得したように数回、首肯すると「…ほんとだ。確かに」なんて意味を咀嚼しだす。
何が『ほんとだ。確かに』だ。
わかって頷いてるのか?このオンナは。
「その手もありましたね」
「…どの手だ」
「だから今、貴方が言ったような、」
「言っておくが、高々、小娘ひとり相手なら少々の手負いだろうと
ひねり殺す
ことぐらい造作もない事だとわかった上で納得してるのか」
しかし最後にそう、付け足せば顰まった眉がさらに険しさを増し
「……呆れた」といきり立つ彼女の声が、数段、低くなった。
相変わらず、ころころと表情が豊かに変わるもんだ。
こんな馬鹿正直にひとの言葉を間に受けてよく、生きてこれるものだな表社会の世界というのは。
「冗談だ」
「……貴方と話してると何が本当でナニが嘘かわからなくなってくるんですけど」
「それはお互い様だろ」
「はっ?いや、私のナニが…」
「血が怖いのに何故わざわざ手当てをする」
「はぁ?コワイに決まってるでしょ何言ってるんですか。私は医者でも何でも無いのに、」
「____嗚呼、ちがうか。
仮にでも
ここで野垂れ死にされたくないが為の保険か」
____ぴくり。
その一言で、ようやく。
少女のなかに潜む澱が、顔を出したような気がした。
すぐに逸らされた視線。
動揺に濡れた瞳孔が、定まらず自分の手許に忙しなくうつり顔が低く、下がる。
きゅ、と結ばれた口許。
暗に突かれたくない話だ、と体現しているかのような態度だ。
「…喋るだけならタダだぞ」
「…」
「言えば、楽になることもある」
「…」
・・・・・ただの、気まぐれ。
『怪我の功名』と言われればそう、かもしれない。
女の話など、聞いてやる義理もないが暇つぶしをしない道理も、別段、見当たらない。
居心地のよいオンナの、その内にある澱をほんのすこし、掬ってやれば、
あの透きとおった黒曜石の瞳が、またこちらを向いてくれるのではないか。
そんなめずらしく迸る興味と、配慮を以ってしていると言うのに
口を開かない少女は、
いまだ顔を背けたまま。