ベイビー•プロポーズ

プロローグ


私、伊藤萌葉(いとうもえは)は幼い頃から珍しい名字に憧れていた。


伊藤といえば日本で5番目に多い名字。


小中高と同じクラスには必ず伊藤がいたし、病院の待合室で「伊藤さま〜」と呼ばれれば数人が一斉に顔を上げる。


ちなみに、今の会社の同じフロアに伊藤は私を含めて3人いる。


小鳥遊とか、神宮寺とか、早乙女とか、珍しくてかっこいい名字になりたくて。いろんな名字と自分の名前を組み合わせ、頭の中で妄想なんかもよくしていた。

 
そんな名字フェチな私がこれまで出会った中で1番素敵だと思った名字は"獅子堂"


高校生の頃、7歳下の弟が友達だと家に連れてきた男の子――獅子堂黎(ししどうれい)はその美しくてかっこいい名前に負けないくらいの美形で。


ブラコン発言になるけど、弟の碧葉(あおば)は学年一、いや、学校一のイケメンだと思っていた。某事務所に履歴書を送ろうか、本気で考えたほどかっこいい。姉の贔屓目なしにもかっこいい。


黎はそんな碧葉と並んでも全く引けを取らないレベルだった。


碧葉とクラスも一緒、地域のバスケットクラブも一緒ということもあり、我が家によく来るようになった黎とは次第に私も仲良くなって。


「黎くんの名字かっこいいね」「黎くんの名字うらやましいな」と口癖のように言っていた気がする。
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