ベイビー•プロポーズ
「ちょ、もえどうしたあ?」
「なんか、なんか寂しくてぇ…」
「え~萌葉が泣き出した~」
「ねえ私まで泣いちゃうからやめてよっ」
「あたしももらい泣きしそう」
「ちょっと皆で泣かないでよ~!」
音を外しながら気持ちよさそうに大熱唱している男子グループも、まさか隣の部屋で大の大人8人が声を上げて泣いているなんて想像すらしないだろう。
もしもこの現場に店員が入ってきたら、私たちはしばらくの間バックヤードでの話のネタにされてしまうだろう。
それほどカオスな状態だ。
「あっ、最後の曲始まっちゃったよ」
ぼんやりとした脳内に聞き覚えのあるイントロが入り込んでくる。
ああ、これは、私たちが高校の卒業式で歌った贈る言葉だ。懐かしい。
そういえば、卒業ソング特集を家で一緒に見てた時、碧葉も黎もこの曲知らないって言ってたな。ジェネレーションギャップ……悔しいなあ。
って、あれ、黎のことは考えないようにしようと思ってたのに……
「あれ、ちょっともえ?おーい」
「えぇ、まさか萌葉寝た?」
「ははは、やば最高。もえは~起きな~」
「こうなったらこの子は完全アウト。碧葉くん召喚しないとかなあ」
「椎菜連絡先知ってるの~?」
「うん!電話してみる」
椎菜の左半身にぎゅっとくっつきながら、私の意識はぷつりと途切れた。