ベイビー•プロポーズ
胸元で手をぎゅっと握って潤んだ瞳で弱弱しく哀願する姿は、女の私から見ても普通に可愛いと思う。
これにまんまとやられる男はたくさんいるんだろうけど、生憎黎には通用しないようで。
縋るような視線はひんやりとした視線に一瞬で払い除けられた。
「さやかー!早く早く」
再びひんやりとした空気が流れ始めた時、こちらに向かって声を上げたのは開かれた教室の扉から現れたメイド姿の女の子。
さやかと呼ばれたツインテールの子は「わかったぁ、今行くっ」と声の方へと振り返り手をひらひらさせると、顔だけを黎へと向けた。
「じゃあ、文化祭が終わったらちょっとでいいから時間が欲しいの」
「……」
「連絡するね」
黎の冷ややかな視線に怯むことなく、最後まで黎だけを見つめていたさやかちゃんは、返事を聞かずこの場を去っていった。
甘めの香水の残り香が漂う中、はあ、と1回大きくため息を吐いた。
「えぇ~あの子は一体なんなの!?」
私の心の声をそっくりそのまま口にしたのは美郷。私の真横に並ぶと、横から肩をゆさゆさと揺らしてきた。
「若さの塊って感じだよね。完全に私のこと下に見てた」
「いくら若くてちょ~っと可愛い顔してたって腹の中真っ黒すぎて終わってるわ。それに断然萌葉の方が可愛いから!」
「あはは、ありがと」
「黎くんもナイスだったよ~!めちゃくちゃすっきりした!」
「私もあんなに冷たい黎は初めて見たからびっくりしちゃった」