ベイビー•プロポーズ

私の最後の言葉に大きく反応した黎は、距離を一歩詰めてきた。


「……嫌いになった?」

「え?」

「あれでも、もえがいたから抑えてたつもりだったけど。さっきの俺のこと見て、嫌になった?」


「俺も腹黒いし」と続けた黎は、気まずそうに視線を足元へと落とした。隣の美郷は「えぇ…かわいい…」と吐息交じりの感嘆の声を上げている。




「全然、全く」

「……」

「見たことのない黎だったから少しびっくりしただけだよ?むしろ黎がああいう子に引っ掛からなくてよかった」

「あいつのせいで、もえ、嫌な思いした?」

「ううん、大丈夫だよ?」


視線が徐々に上がってきて、弱った子犬のような瞳と再び視線が交わる。


「それより黎はこれからどうするの?」

「もえたちは?」

「私たちはそろそろ他を回ってみようかな。お昼食べてから黎たちのクラスに並ぶね」

「じゃあ俺はあおと合流する。うちのクラス来るときに連絡して」

「うん、おっけい」

「ちょっと待って!」


私たちの会話を大きく遮った美郷は「萌葉と黎くん、2人で回ればいいんじゃない?」と目力を強めた。


「俺もそれ言おうとしてた。黎くんが時間空いてるならそうすれば?」

「いや、せっかく2人が一緒に来てくれたのに、」

「私は伊藤と楽しんでくるからさ。そんで黎くんのクラスに並ぶ時に合流しようよ」


「ね、黎くんもそうしたいよね?」と続けた美郷の言葉に顔を横へと向けると、やや目を見開かせている黎の瞳の奥はキラキラと輝いていて。


さっきまでとは違い、喜びを隠しきれず架空の尻尾をぶんぶんと振り回していた。
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