ベイビー•プロポーズ
「もえと同級生になった気分」
「そう?」
「うん。中庭デート」
ようやくたこ焼きを1粒口にした黎は「あ、ほんとだ。うま」と僅かに目元を緩めた。
「お昼休みの中庭ってさ、カップルたちで占領されてるよね」
「そうなの?」
「え、違うの?私の時代はそうだったけど」
「俺、中庭初めて来た」
「えぇ、3年間で1度もないの?」
「ない。基本自分の席から動かないし。昼も教室でしか食べたことない」
「それはもったいなさすぎる!」
確かに黎が机に突っ伏している姿は安易に想像できるし、碧葉もそんなことをよく言っている。
「でも、もえが同級生だったら、一緒にいろんなことしたい」
箸を一旦置き、鮮やかなブルー色のかき氷をひと掬いした黎はプラスチックのスプーンを「あーん」と私の口元へ運ぶ。
「あーん、はちょっと恥ずかしすぎる」
「やってみたい」
「皆見てる」
「誰も見てない」
黎は私以外のことには酷く鈍く、周りから向けられる視線に本気で気づいていないよう。
今もそうだけど一緒に歩いている時だって、並んでいる時だって、すれ違う人達は分かりやすく丸めた目を黎へ向けていた。
『ええ!?獅子堂くんが女の人といる』
『獅子堂くんの雰囲気、いつもと違くない?』
『うわー、なんかショックかも』
聞きたくなくても聞こえてくる、ひそひそと話すJKたちの声だって。ひたすら私だけを視界に入れる黎の耳には何も入っていないようだった。