ベイビー•プロポーズ
「もえ、あーん」
「恥ずかしい」
「溶けちゃうから早く」
「……」
「あーん」
結局いつも通り根負けするのは私。
よほど私にあーんをしたかったのか、黎は満足そうに「中庭デート、いいね」と呟いた。
「さっきの、私が同級生だったらしたいことって、他に何があるの?」
「まず、朝は毎日一緒に登校する。同じクラスだったら、授業中絶対寝ない。もえのこと、ずっと見てる。真剣に授業を聞いてるところも、眠そうにうとうとしてるところも、休み時間に友達と話してるところも。いろんなもえを見てたい」
こっちが気恥ずかしくなってしまうような台詞。それを真顔で淡々と告げる黎は、さらに口を開き続ける。
「たまにこうやって、一緒に外で昼休みも過ごしたい。もえの手作り弁当食いたい。放課後も下駄箱とかで待ち合わせして、手繋いで一緒に帰りたい」
「学校行事だってちゃんと参加する。体育祭もバスケ頑張るからもえに応援してほしいし、リストバンドの交換もしたい。文化祭も、もえと後夜祭に参加したい」
珍しく長台詞を言い終えた黎は、再び鮮やかブルーのかき氷をひと掬いすると私の口元まで持ってくる。さっきよりも抵抗なく口を開きひんやりと甘いそれを飲み込んだ。
「黎と一緒の学校生活、私も送ってみたかったかも」
するりと滑り落ちるように口から出た私の言葉に、視界の端に映る黎の瞬きのスピードが少し速まったような気がする。
ゆっくりと視線を上げると、黎は唇をきゅっと結びながら、こくりと首を縦に動かした。
「来世はもえの同級生兼彼氏になれるように頑張る」
何を頑張るのよ、と笑いながら今度はたこ焼きに手を伸ばした。
私たちの間には、なんとも穏やかで平和な時間が流れていた。