ベイビー•プロポーズ
エピソード5
いつもだったら黎と横並びになって他愛のない話をして歩いているところだけど、今は黎の1歩後ろを黙って着いていくだけ。左腕は未だ黎に掴まれたまま。
黎は一体何を考えているのか。さっきのキスをどう思っているのか。背中越しでは黎の心情は当たり前に読み取れない。
お互い無言のまま数分歩き、大通りの交差点に差し掛かったところ。赤信号を待っている間、この沈黙を破ったのは黎のほうだった。
「もえ、これからどこ行く?」
「……」
「行きたいところない?」
「黎は?」
「もえと一緒ならどこでも」
「……言うと思った」
すっかり通常運転に戻っている。声色も、振り返って私の顔を覗く表情も、いつも通りの黎だ。
どうしてあんなことがあって普通にしていられるの?キス、されてたのに……。
私はずっとさっきのことが引っ掛かっているのに。きちんと視線を合わせられないし、いつもより低い声が無意識にも出てしまう。素っ気なく返事をしてしまう。
それなのに、どうして黎はそんなに普通なの?
黎の態度にモヤモヤとした黒い感情が再び襲ってくる。
いつの間にか掴まれていた腕は離されていた。なんの抵抗なのか自分でも分からないけど、信号が青に変わった交差点を横並びにはならず半歩後ろを歩いた。