ベイビー•プロポーズ


「――……んで、」

「ん?」

「っ、なんで、そんなに普通にしていられるの!?」

「も、え……?」

「ねえ、さっきキスされたよね?私の目の前で、あの子にキスされてた。それなのにどうして黎はいつも通りなの?なんとも思わなかったの?」


これまで胸に留めていた思いが口から一気に吐き出されれる。


頑なに目を合わせずにいたけど、ここでようやく黎へと鋭い視線を向けた。きゅっと唇を結び、純な瞳をゆらゆらと揺らす黎と視線が対峙する。


どうして私はこんなに怒ってるの?どうして黎に不満をぶつけてるの?


黎は無理矢理キスをされた、言わば被害者みたいなものだ。その黎を責めてどうしたいの?私は黎にどうしてほしいの?


脳内では冷静に今の状況を確認しているもう1人の自分がいる。


大人げない。そんなの十分分かってる、分かってるけど……。1度口にしてしまえば、もう止めることはできなかった。


「……ファーストキスだったんじゃないの」


一呼吸おいて口にした言葉。その言葉と共に、ぽろりと一粒、涙が頬を伝った。


「俺のファーストキスもらってって言ってたのに…。黎にとってファーストキスってそんなどうでもいいものだったの?」

「もえ、」

「ていうか、どうしてキスされてるのっ!なんで避けなかったのよ、ばか! っ、ばか黎」


どんどん大きくなっていく涙の粒に視界が覆われ、目の前の黎の姿が歪む。


なんて醜態を晒しているんだろう。7歳も下の子を前に感情が抑えられなくなって、理不尽に怒って、終いには泣いて。いくら黎が私のことを好きだからって、こんなの100年の恋も冷めるかもしれない。


より一層視界が歪んだ時、伸びてきた指先に目元をそっと拭われた。


「もえ、ごめん」

「っ、なんなの、ごめんって。謝ったって今さら黎のファーストキスは返ってこないのに」

「ちがう、聞いてもえ」

「……」

「怒らないで聞いてほしい。……できれば、俺のこと、嫌いにならないで」

「……な、に」

「さっきの、俺のファーストキスじゃない」
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