ベイビー•プロポーズ

――もっと近付きたい


そう思った時にはもうすでに黎へと手を伸ばしていた。こちらに向けられていた掌を正面から軽く握る。それに反応した黎は困ったように肩を揺らした。


「もえ、俺の話聞いてた？」

「うん」

「俺、触っちゃだめって言った」

「うん」


決して手を離そうとしない私に根負けしたのか、触れ合った状態の私の左手と黎の右手が、黎主導によって腰元まで下ろされた。


どちらかともなく指を絡ませ合う。


「もえはずるい」

「うん、ごめん」

「逃げるなら今だよ」

「……」

「ていうか、逃げてほしい。これ以上もえに嫌われたくない」


指先に込めていた力を抜いた黎。繋がれていた手と手の間に僅かに隙間ができる。


「黎のことは、嫌いにならないよ」


その僅かな隙間さえ埋めたくて、これでもかと左手の力を強める。ずるいのなんて百も承知。


思えばもうこの時点で、理性なんてものは私の中に存在していなかったのかもしれない。