ベイビー•プロポーズ
時間にして3秒ほど。軽く触れるだけのキスは、ふわふわとした綿毛に口付けているような心地よさがあった。
本能が告げる。――まだ、足りないと。
「ねえ、これは何回目?」
「……よん、」
握りこぶし一つ分の距離で静かに声を落とすと、たどたどしい答えが返ってくる。
「じゃあ、これは5回目ね」
「え」と戸惑う声を出した黎の次の言葉を封じるように、今度は私から唇を重ねた。
黎にとったら5回目、私にすれば2回目の黎とのキス。
ずっと、ずっと、心の奥底にしまいこんでいた感情が蘇ってくる。
意図的にではなく無意識に。傷つかないため、自分を守るために閉じ込めていた。ずっとずっと、蓋をし続けてきた。気づかないふりをしてきた。
どうして私はお付き合いした人をちゃんと好きになることができないのか。
どうして恋愛に向いていないと分かっていながら、彼氏が欲しいと出会いを求めていたのか。
どうして年上の相手ばかり選んでいたのか。
蓋を取ってしまえば、答えは簡単だった。
恋人を好きになれなかったのは、他に好きな人がいたから。
彼氏が欲しいと思っていたのは、好きな人から目を背けたかったから。
意図的に年上を選んでいたのは、好きな人と正反対の人を好きになりたかったから。