ベイビー•プロポーズ

――バンバン、と耳脇で聞こえた音に一気に意識が覚醒した。両腕を枕にうつ伏せていた顔をゆっくりと持ち上げる。


ずいぶんと眠っていたからか、教室の蛍光灯と窓際から差し込む日差しの眩しさに俺の目は潰された。瞬きを繰り返しながら視界を広げていくと、俺の机に手をついて真正面に立っている女と目が合った。


「獅子堂くん!おはよう」

「……」

「ねぇねぇもうお昼だよ?朝からずっと寝てるよね?体調悪いの?」

「……」

「もしかしてぇ、日曜日のこと怒ってる…?」


まだ17年しか生きていないけど、これまでの人生で本気で怒ったことは1度もない。もえの歴代彼氏や、もえと仲良くする男はムカつくけど、それは怒りというよりも嫉妬。


感情の起伏が乏しいわけじゃなくて、もえ以外のことには興味がない。


もえと一緒にいると嬉しい、楽しい、幸せ、
"喜"と"楽"の感情がどんどんどんどん溢れてくる。寂しいと思うのはもえと離れている時。


俺の心がこんなにも動くのはもえといる時だけ。





「ねぇ、獅子堂くん!聞こえてる?」


ムカつく。


元々しつこくて面倒だとは思っていたけど、声を聞くだけでイライラする。
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