ベイビー•プロポーズ
「ありがとあお」
「藤田もめげないねえ。けどあれは空気読めなさすぎだろ」
さっきの女の名字が藤田だと初めて知ったけど、興味がないからきっとすぐに忘れる。
俺の目の前の席へと座った救世主あおは「ほれ」と大きな黒い塊を手渡してきた。
「!」
「今日がばぐだんおにぎりの日だって忘れてただろ」
「……忘れてた。ありがと」
「俺ってまじで優しくね?」
「うん。でもあんま食欲ない。全部食えないかも」
「お前それは女々しすぎるわ」
月曜は文化祭の振休、火曜日は文化祭の片付け日(もちろんサボった)、登校するのは2日ぶり。
第一と第三水曜日は俺の大好きなばくだんおにぎりが購買で売られる日。明太子、高菜、ツナマヨ、焼肉、鮭が入っていてすごくうまい。
月2回の大事な楽しみをすっかり忘れてた。
購買で買った唐揚げ弁当を俺の目の前で広げたあお。あおのスマホからは急にデスボイスと激しいドラム音が流れ始めた。
「!」
「これ聴きながらなら全部食えんじゃね?」
「あおはこういうの嫌いじゃん」
「ああ、まじでうるせぇ。今日だけ特別な」
昼間の教室で流すには不釣り合いなパンクロック。あおに1度聴かせた時、「うるさくて俺には無理」って言ってたのに。
「……あお、俺の彼氏みたい」
「気持ち悪いこと言うなや」