ベイビー•プロポーズ
「いただきます」と手を合わせて1口、2口、とばくだんおにぎりを食べ進めていく。3口目でようやく具材が見えてきたところで目の前からの視線に気付く。
もえと同じ大きな猫目で俺を凝視してくるあお。
「萌葉と喧嘩した?」
「……」
あれは喧嘩なのか?いや、喧嘩とはまた違う。
何て答えていいか分からず、無言でもぐもぐと口を動かしながらあおを凝視し返す。
「萌葉も家で今の黎と同じような顔してんだけど」
「俺みたいな顔ってなに」
「死んだ顔。心ここに在らずって感じ」
「……もえ、元気じゃないの」
「ああ。目が据わっててこえー」
もえには常に笑っていてほしいのに。元気でいてほしいのに。もえから笑顔を奪ってしまったのは間違いなく俺。
胸が途端に重く苦しくなってきて、4口目のおにぎりが口に入っていかない。大好きなパンクロックも右から左へと音を乗せずにすり抜けていく。
「俺さ、最近のお前らの雰囲気からしても文化祭あたりにはくっつくんだろうなって思ってたんだけど。どうしてそんな拗れてるわけ?」
「…………、もえにキスした」
あおに言ったら怒られるかも、と一瞬躊躇ったけど、あおに隠し事はしたくなくて。伊藤家への出禁も覚悟してそう告げると、眉を寄せたあおは首を傾げた。
「それでなんでくっついてねぇんだよ」
「あお、怒らないの」
「怒んねぇわ。いつも言ってるけど、俺は早くくっついてほしい派だから」
「多分もえに嫌われた」
「は?なんで。いきなりディープなやつかましたとか?」
「……そんなのしてない」
「じゃあなんで」
「分からないけど、もえ、1人で帰っちゃった」