ベイビー•プロポーズ
一体どのくらいだろう。ぼんやりと黎の寝顔についつい見入ってしまっていた。
――突然、枕元から爆音デスボイス、続いて激しいドラムの音が鳴り響く。日本語のはずなのに歌詞が全く聞き取れない、頭の割れそうなパンクロックがスマホから流れ始めた。
ぴくり、黎の身体が動き眉が僅かに寄る。
私の声では起きる気配が全くなかったのに、お気に入りの曲は脳内にしっかり届いているらしい。
激しい曲とは無縁そうな黎は意外にも、ヘビメタやパンクロックといったテイストの曲を好んで聞いている。だけど黎は絶望的にリズム感がなく、アップテンポの曲には身体がノリきれていない時が多々ある。
ベースの重低音が聞こえてきたところで、ん〜〜と小さく唸った黎の瞼が少しずつ持ち上がり始めた。
「黎!起きて!」
ここでようやく私の声が届いたらしい。半分ほど開かれた瞼、うつらうつらとしていた瞳が私をとらえた。
「あ、もえ」
いつもよりやや低めではあるけれど相変わらずの抑揚のなさに、気が抜けそうになった。
「あ、もえ、じゃない!いろいろ言いたいことはあるけど、まずこの腕と足を離して!」
「ん」
「そして音楽うるさいから止めて!」
「ん」