ベイビー•プロポーズ
「こういうのがもえの負担になってたのかも」
心の中で呟いたはずの言葉が口から出ていたらしい。
俺の小さな呟きに「それはねぇだろ」と首を振ったあおは「萌葉が頑固すぎるだけ」と続ける。
弁当がまだ半分残った状態で箸を置いたあおはBGMとなっていたパンクロックをいきなり止めると、じっと俺の顔を見つめてきた。
「弟の俺が言うのもあれだけどさ、萌葉って可愛いじゃん」
「うん。この世で1番かわいい」
「普通にモテるし、今は彼氏いないみたいだけど作ろうと思えばすぐに出来ると思う」
「……うん」
「宮田と桑野にも学祭中に萌葉のこといろいろ聞かれたし」
「……」
むっ、と心に芽生える嫉妬と独占欲。
廊下側の席で紙パックのレモンティーを飲んでる宮田と、俺と同じばくだんおにぎりを食べてる桑野に恨めしい視線を送る。それに気付いた2人は何を勘違いしたのか笑顔で手を振ってきた。ので、俺も真顔で右手を上げる。
「だけど俺は宮田と桑野と兄弟になんのは御免だから」
聞こえてきた言葉に、再び顔をあおへと向けた。
「どういうこと」
「あいつらだけじゃなくて、どこのどいつか知らねぇ他の男も論外。将来俺の兄弟になんのは黎以外認めないって話」
「……おにいちゃん」
「いや、逆じゃね?」
なんだか胸がじんわりと熱くなる。これが心を打たれるって感情なのかもしれない。
「あお」
「ん?」
「俺、あおの言葉に感動してる」
「ははっ、表情は全く変わってねぇけどな」
猫目をくしゃっと細めたあおは、両手を伸ばして俺の肩を軽く掴んだ。
「まあ、安心しろ。未来の弟が一肌脱いでやるわ」
「……おにいちゃん」
「だから逆な」
小学、中学、高校、俺の隣にはずっとあおがいた。
あおは俺にとって、好きな子の弟で、頼れる救世主で――唯一無二の親友だ。