ベイビー•プロポーズ
「観葉植物はな、机の右側に置いておくと仕事運が上がるんだ。これでお前らの淀んだ空気も入れ替えできるはずだから」
自信満々にそう告げる部長のネクタイの色は今日も緑色。緑色のネクタイは仕事運を上げてくれるから俺はこの色しか付けない、と前に本人から聞いたことがある。
奥さんが風水に詳しい影響で部長もどっぷりその世界にハマったらしい。『風水のおかげで部長にまで昇進できたんだ』という台詞は部長の口癖のようなものだ。
私のミスが続いているのは風水的な問題じゃなくて、間違いなく日曜日のことが原因だ。だけどせっかくの部長からの厚意は受け取らないと。
「あ、ありがとうございます。飾ってしっかり仕事運上げます...!ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした」
ミニサボテンと長い葉っぱの生えた鉢を両手に、謝罪の言葉と共に頭を下げた。
「よし!それと伊藤。これで好きな飲み物でも買ってこい。まだ顔色悪いから少し休憩してきたほうがいいぞ」
「え、いいんですか…? ありがとうございます!」
まさかの部長からの臨時収入500円。手に持っていた観葉植物を一旦デスクに置きなおし、ありがたくそれを頂戴する。
長年経理部にいるという部長は、気さくで基本的に部下に優しい。心が弱っている時に与えてもらう優しさは、いつも以上に胸に滲みる。
部長の優しさと、プライベートな感情を仕事に持ち込みミスを連発してしまった自分の不甲斐なさが相まって、瞳の水分量が急激に上がっていく。じんわりと目の縁に浮かんでくるそれを隠すように、もう1度頭を下げた。