ベイビー•プロポーズ
その切なげな表情があまりにも儚くて。
初めて見る沢城先輩の表情に思いっきり顔を横へと向けた。目を伏せたままの先輩は「だせーな」と低く呟くと、自販機前に並んでいる長椅子へと腰を落とした。
「……別れちゃったんですか?あの美人な彼女さんと」
「さっきの聞いてたわけ?」
「……すいません。盗み聞きとかじゃないんですけど、ちょうど聞こえてきちゃって」
「そう。まあ、そんな感じ」
「だから先輩いつもと違うんですね」
「なに、死にそうって?」
「それもありますし、先輩が普段絶対しないようなミスをしたって部長から聞いたので……」
「まあ、だいぶボロボロではあるな」
両手を椅子について遠くを見つめる沢城先輩と、そんな先輩を見下ろす私。視線が一切交わることのない先輩の虚無の瞳が、酷く痛々しく感じた。
沢城先輩と恋愛は結び付けにくいし、『来るもの拒まず、去るのも追わず』なイメージを勝手に持ってしまっていた。それなのに、あの沢城先輩がこんな状態になってしまうなんて。
「沢城先輩でもそんなことあるんですね」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「あ、悪い意味で言ったんじゃなくて、……すみません」
「お前は自分の心配したほうがいいと思うけど」
ここでようやく、沢城先輩の視線が私へと向けられた。だけどその瞳は正面にいる私が本当に映っているのか心配になってしまうほど、暗く淀んでいる。