ベイビー•プロポーズ
部長にもらった観葉植物の風水効果があったのか、ミスをすることなく1日を終えた。
今日は華の金曜日。美郷と優弥から飲もうと誘われたけれど、今週は精神的に疲労困憊でぱあっと飲みに行く気分になれず。2人のお誘いは泣く泣くお断り。
居酒屋へ向かうのであろう人で活気づいている最寄り駅。まだアルコールも入っていないのに賑わっている人達とは反対側の住宅街へと足を進める。
明かりの点いた玄関前。淡い期待を抱きながら扉を開けると、玄関先に並んでいたのは見慣れた黒スニーカー1足のみ。
昨日も、一昨日も、いや、今週はずっと。黎のスニーカーを無意識に探してしまっている自分に心底嫌気が差す。
「ただいま~」
「おー、おかえり」
「碧葉、1人なんだ」
「そう。黎に振られちゃったから1人」
リビングのソファに深く腰掛けながらテレビゲームをしている碧葉。
いつもなら黎と横並びになり、口が悪くなりながらもわちゃわちゃと楽しそうにゲームをしていた2人の姿が脳裏に浮かぶ。
テレビ画面に夢中の碧葉とは反対に、ゲーム内がどんな状況だろうと、私が帰ると必ず目を見て「おかえり」と言ってくれる黎の姿を鮮明に思い出してしまう。