ベイビー•プロポーズ
その場で立ちすくんでいると、コントローラーを机に置いた碧葉がソファへ仰け反った態勢はそのまま、視線を私へと移した。
「黎、しばらくはうちに来ないってよ」
「…へえ、そうなんだ」
「もしかしたら一生来ないんじゃね?あいつ」
「……」
「あーあ、誰かさんのせいで親友と遊べなくなっちゃったー」
「……」
ケラケラと笑いながら軽い口調で話す碧葉だけど、私へと向けるその瞳の奥は全く笑っていない。
こんな視線を碧葉から送られるなんて初めてのこと。若干の怖さを感じ、ぞくっと鳥肌が立つ。
「なあ萌葉。いつまで逃げてんの?」
「なに…?なんのこと、」
「黎のこと、どうするつもりだよ」
「どうするって……。黎に何か聞いたの?」
「家での萌葉の様子と学校での黎の様子見てたら、何かあったことくらい普通に分かる」
「……」
「弟としてじゃなくてあいつの親友の立場から言わせてもらうけど、萌葉は黎に甘えすぎ。向けられてる好意に答える気がないくせに曖昧な態度ばっかとって。黎の気持ち踏みにじって、傷つけて、そこまでして自分のこと守りたいわけ?」
碧葉から初めて投げられた鋭利な言葉たちがぐさぐさと私の真ん中に突き刺さる。
正論すぎて何も言えない。喉の奥がぐっと詰まって何も言葉を発せない代わりに、瞳には涙がじんわりと滲んでいく。
これまでも碧葉から黎のことを言われることは何度もあったけれど、ここまで踏み込んで話をされるのは初めてだった。