ベイビー•プロポーズ
私と黎だけになった空間に少しの静けさが訪れる。
恥ずかしさ8割、気まずさ2割。しゃがんでいる私の真横にいる黎の顔を見ることができず、フローリングの板目へと視線を落とす。
この期に及んでどうすればいいか分からず、この場をリードすることもできない年上のダメダメな私。
「もえ」
「はい」
「こっち、向いてほしい」
少し身体を横にして黎と向き合う形になる。ゆっくり視線を上げていくと、唇の端と端をきゅっと結んだ黎は真っすぐ私を見ていた。
黎の顔をしっかり見るのはかなり久しぶりのように感じる。目が合っただけでトクトクと鼓動は速さを増していく。きゅうっと胸が苦しくなる。
ご丁寧に正座をしている黎に倣って、私も同じように座り直した。
「もえ、俺はずっともえが好きだよ。もえだけが好き」
「……うん」
「もえの気持ちも、もう1回ちゃんと聞かせてほしい」
純粋無垢な瞳がじっと私を見つめる。
意を決した私は小さく息を吐き、太ももに乗せていた両手を鼓舞するように握った。
「私も、好き。黎のことが好き、……です」
思ったよりも弱弱しい声になってしまった。恥ずかしさのあまり、じわじわと顔全体に熱が集中する。
だけど黎を見つめる瞳だけは、決して逸らさなかった。私はもう、この気持ちから逃げたくない。