ベイビー•プロポーズ
「ちょっとお母さんに抗議してくる!」
「今日優子さん早番だよ」
「碧葉は?」
「あおも朝から出かけてる」
「え……、」
「この家にいるの、俺ともえだけ」
私よりも我が家のことを把握している黎は、回りきっていない口でそう言うと、私をホールドしている腕の力を強めた。8割方瞼は閉じられている。
「ねぇ黎、何時に寝たの?」
「んー…外が明るくなってきてから」
「えぇぇ、それまで何してたわけ?」
「もえが隣にいると落ち着かなくて眠れなかった」
「はい?」
「あとはもったいないから眠らなかった」
いやいや、そんなこと言ってるけどあんなに密着して爆睡かましてたよね?と突っ込んでやろうかとも思ったけど、それは心の中に留めておいた。
だって、黎の目元には薄っすらとクマができていたから。
基本的に私に関すること以外では出不精で完全なインドア派。日光が嫌いな黎の肌は私よりも白いから、少しのクマでも目立つ。
その姿に少し、罪悪感が芽生えた。
黎自身の意志とはいえ、連絡がなければ眠っていたであろう遅い時間にわざわざ酔っ払いの私を迎えにきてくれたことにはお礼を言うべきかもしれない。
「黎」
「んー」
「迎えに来てくれてありがとう」
「……」
「いつもありがとね」
意識の半分は夢の世界へ行っているであろう黎へと、素直に感謝を述べた。
閉じられていた黎の瞼がゆっくりと開き、真っすぐに私を見下ろす。
「もえ、すき」
「っ、ちょ、」
少し上へと向けていた私の顔を自分の胸元に押し付けた黎は、それからしばらくして、すーすーと気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
抵抗する気も起きなくなってしまった私は、真正面から黎に抱きしめられる形で、そのまま静かに目を閉じた。