ベイビー•プロポーズ
パチパチ、パチパチ、と瞬きをするたびに両目からこぼれ落ちる涙。
「えっ、ちょっ、黎?」
初めて見る黎の涙に思わず膝立ちになってしまう。
小学生の時、ミニバスの大会で親指骨折という大怪我をした時ですら泣かなかったあの黎が。玉ねぎのみじん切りをする時ですら一滴の涙も流さないあの黎が。
今、目の前で涙を流している。
顔を歪めることは一切なく表情はそのままに、ポロポロと涙だけがこぼれ落ちていく。
一向に止まる気配のない涙に手を伸ばした時、その手は黎の手に捕まり正面に引っ張られた。そのまま身体は前へと倒れ込み黎の腕の中にすっぽりとおさまる。
その場で黎を見上げると、ちょうど1粒の涙が頬へと流れた。その1粒はまるでダイアモンドのよう。
あまりにも綺麗でキラキラとした輝きを放つその涙は、穢れを知らない純粋無垢な黎の心をそのまま表しているようだった。
「どうしよう、もえ」
「ん?」
「幸せすぎて、俺、バグったみたい」
私の腰に両腕を回している黎に代わって目元を拭ってあげると、パチパチパチっと瞬きが早まり、さらに涙の粒が増えていく。