ベイビー•プロポーズ
「もう、だめだと思ってた。もえに完全に嫌われたと思ってたから、今のこの状況がまだ信じられない」
そう言った黎は私の存在を確かめるように、両腕の力をぎゅうっと強める。
「もえ、もっかい、好きって言って」
「黎。好きだよ。私は黎が好き」
「……幸せ。もえのこと、諦めないでよかった」
「……うん」
「ほんと、よかった」
その言葉に私の目からも涙が溢れた。
黎の優しさに甘えすぎて、これまで何度も悲しい思いや苦しい思いをさせてしまったと思う。だからこそこれからは、私が黎のことを幸せにしていきたい。黎がこれまで私を大切にしてくれた分、その何倍も黎を大切にしたい。
「もえ」
「ん?」
「俺の彼女に、なってくれるの?」
「黎がいいって言ってくれるなら。私のこと、黎の彼女にしてくれる?」
強請るように眩しいほどの輝きを放つ瞳を見つめると、黎はこれでもかと大きく2回首を縦に振った。
「俺のこと、もえの彼氏にしてくれる?」
「もちろんだよ」
「俺、今、もえの彼氏?」
「うん、私の彼氏」
「もえの彼氏は、俺」
「ふふっ、私の彼氏は黎だよ」
「……やば。幸せすぎて死にそう」
死にそう、と口にしながらも緩やかに目尻を下げる黎の表情はこれまで見た中で1番幸せそうだった。
「もえ」
「なーに?」
「もう、限界かも」
「……え?」
「いちゃいちゃしすぎないように気をつけるから、」
「う、ん」
「キス、していい?」
返事の代わりにそっと目を閉じる。
私の右目から涙が頬を伝った時、唇に柔らかな温かさを感じた。