ベイビー•プロポーズ


「おれ、もえのおとーとになる!」


夜ごはんの途中、高らかに宣言した俺のもとに家族の視線が集まる。


「えっ?もえちゃんの弟になる?」

「黎、急にどうしたんだ?」

「黎は俺の弟だよ?」


父さんも、母さんも、雅も、皆が驚いたように目を丸めている。


「あおはもえのおとーとだから、もえとずっと一緒にいれるんだって。5時になっても、ばいばいしなくていいんだって」

「あおくんともえちゃんは家族だからねぇ」

「だからおれも、もえのおとーとになる」

「なるほど。そういうことか」

「もえのおとーとになったら、もえとずっと一緒にいれる」


ナイスアイディアだと思った。もえの弟になれば、もえに毎日会える。ばいばいしなくて済む。幼い俺はこの時本気で、もえの弟になりたいと思っていた。簡単になれるものだとも思っていた。


「ふふっ。黎はもえちゃんのことが大好きなのね」

「うん。おれ、もえのことすき」

「どんなところが好きなの?」

「かわいいところ」

「俺が好きなみかちゃんだって可愛いよ」

「もえのほうがかわいい。もえは世界一かわいい」

「えぇ~お母さんよりも?」

「おかあさんも、かわいい」

「ふふっ、ありがとう。黎は優しいねぇ」


ハンバーグをもぐもぐと口に入れていると、目の前から手を伸ばした母さんは俺の前髪をくしゃっと撫でた。
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