ベイビー•プロポーズ

「黎は完全アウトだったな」

「いい線いってると思ったんだけど」


大幅に外したことが悔しかったらしい黎は、分かりやすく肩を落としている。黎はクイズ番組にはけっこう本気で参加するタイプだ。


「つーかさ、黎だって萌葉のことあだ名で呼んでんじゃん」

「え」

「確かに! “もえ” はあだ名よね」

「え」


碧葉とお母さんの問いかけに黎は目を丸めている。


私も特に気にしたことはなかったけど、言われてみれば“もえ”はあだ名だ。


黎は初めて会った時から、萌葉でも萌葉ちゃんでもなく、私のことを“もえ”と呼んでいた。きっと、碧葉のことを“あお”と呼んでいたからその流れでだと思う。


「俺、ずっと呼び捨てにしてたつもりだった」

「そういえば、黎に萌葉ってちゃんと名前を呼ばれたことないかも」

「たしかにない」

「じゃあここで1回呼んでみれば?」


碧葉の提案に「うん」と頷いた黎は私のほうへと顔を向ける。


「萌……………………………、」

「……ん?」

「も、え………………………、」

「んん?」


なんだか様子がおかしい。


口を「え」の形にしたまま固まってしまった黎は、真っ白な頬をほんのり赤く染めていく。


「あれ〜?もしかして黎、恥ずかしいの?」


笑い混じりのお母さんの声に黎は「……」と固まったまま。
< 176 / 178 >

この作品をシェア

pagetop