ベイビー•プロポーズ
「黎は完全アウトだったな」
「いい線いってると思ったんだけど」
大幅に外したことが悔しかったらしい黎は、分かりやすく肩を落としている。黎はクイズ番組にはけっこう本気で参加するタイプだ。
「つーかさ、黎だって萌葉のことあだ名で呼んでんじゃん」
「え」
「確かに! “もえ” はあだ名よね」
「え」
碧葉とお母さんの問いかけに黎は目を丸めている。
私も特に気にしたことはなかったけど、言われてみれば“もえ”はあだ名だ。
黎は初めて会った時から、萌葉でも萌葉ちゃんでもなく、私のことを“もえ”と呼んでいた。きっと、碧葉のことを“あお”と呼んでいたからその流れでだと思う。
「俺、ずっと呼び捨てにしてたつもりだった」
「そういえば、黎に萌葉ってちゃんと名前を呼ばれたことないかも」
「たしかにない」
「じゃあここで1回呼んでみれば?」
碧葉の提案に「うん」と頷いた黎は私のほうへと顔を向ける。
「萌……………………………、」
「……ん?」
「も、え………………………、」
「んん?」
なんだか様子がおかしい。
口を「え」の形にしたまま固まってしまった黎は、真っ白な頬をほんのり赤く染めていく。
「あれ〜?もしかして黎、恥ずかしいの?」
笑い混じりのお母さんの声に黎は「……」と固まったまま。