ベイビー•プロポーズ
「昼間にさ、黎は必要以上に女と喋らないって言ったじゃん。俺より女にドライってのも」
「うん」
「そんなんだけどあいつ、普通にモテるから」
「…へえ」
突然、心に靄がかかった。喉の奥が詰まるような感覚に襲われる。
「萌葉がそんなん釣れない態度ばっかとってたら黎のこと取られるかもしんねぇよ?」
「……」
「いいの?黎が萌葉以外の女に優しくしても」
「……」
横からの視線を感じ、ここでようやく碧葉と顔を向かい合わせた。私を揶揄うために言っているわけではないことはその表情から伝わってくる。
「いいんじゃない、別に。それに黎だって同世代と付き合った方がいいに決まってるもん」
再び碧葉から視線を逸らし、テーブルに置いていたオレンジジュースをごくごくと喉に流し込んだ。
口から出たのは半分、いや、8割方本心だ。
「はー、俺の姉ちゃんってまじで馬鹿」
「あのねえ、お姉ちゃんは大人だから現実的なことを言ってるの」
「俺には理解できねぇな。別に好きなら好きで余計なこと考えなくてよくね?」
「は、」
「萌葉だって黎のこと――」
碧葉が言葉を言い終える前に、ガシャンと持っていたグラスを目の前のテーブルへ勢いよく置いた。
「お風呂、行ってくる」
「あー、はいはい。行ってらっしゃい」
さすがの碧葉も空気を読んだのかこれ以上は何も言わず、立ち上がった私にひらひらと手を振っていた。
ジュースで流し込んだはずなのに、喉の奥から胸にかけて詰まったもやもやはしばらく残ったままだった。