ベイビー•プロポーズ

笹本先輩は私の2年先輩でゆるふわな雰囲気の可愛らしいひと。


経理部に配属され、指導係だった沢城先輩に一目惚れ。ありとあらゆる技を使ってアピールしても上手くかわされ、直接告白をすれば『彼女以外興味ないから』とばっさり切り捨てられたらしい。そしてそれは他の勇者たちも同じと。


私のオフィスラブ妄想も呆気なく粉々に。


その話を聞いて以来、沢城先輩のことは目の保養として密かに追っている。




羽織っていた薄手のカーディガンを脱ぎ背もたれへとかけていると、沢城先輩が欠伸をするところが横目に入った。


「そいえば先輩、今日出社早いですね」

「ああ。今日は定時前に上がりたくて早めに来た」


沢城先輩も私と同じく都内に住んでいる。


1年目まで本社近くの社員寮に住んでいたという沢城先輩は、彼女との同棲を機にその寮を抜けたらしい。乗り換え2回、1時間半以上かけてここまで通っていると。


この情報はわざわざ沢城先輩が自ら教えてくれたわけではない。


教えてくれたのは広報部にいるオフィスラブ真っ只中の私の同期。その子の彼氏が沢城先輩と同期で仲が良く、沢城先輩の話が流れてくるらしい。


今日の沢城先輩はいつもと違って前髪をしっかりセットしている。そして定時前に上がりたい、となると、


――彼女さんとデートですか?


なんてことは当たり前に聞けるはずもなく。


その質問は心の中で留めておいて、「そうなんですね」と当たり障りのない返答をした。
< 34 / 178 >

この作品をシェア

pagetop