ベイビー•プロポーズ
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「……」
「……」
鏡越しに感じる重たい視線。
無視しようにも胸元まである毛先を巻こうと鏡に目をやれば、嫌でも視界に入ってくる。
「黎、邪魔だよ」
「……」
「黎、これ、当てるよ」
後ろを振り返り、私の背後にぴったりとくっつく黎へと手に持っていたコテを向けた。
「いいよ」
「は?」
「もえに付けられるならどんな傷でも痕でも」
「……」
「はい」
いやいや、なぜ急にこの子はドMになっている?
あろうことか少し顎を上げて真っ白な首元を露にする黎に、何も返す言葉が出てこない。
「黎さすがにそれはキモいわ」
白い目を向けて固まっていると、ケラケラと笑いながら洗面所の脇を通った碧葉が私の心の内を代弁してくれた。
どうやら私と黎の会話が聞こえていたよう。
「碧葉!リビング行くなら黎も一緒に連れてって」
「えー無理」
「こうなってるのは碧葉のせいでしょー!」
洗面所の扉から顔を出し碧葉の背中に声を上げると、この状況を作り出した犯人はこちらを振り向くことなく、ひらひらと手を振りながらリビングへと消えた。
「ねえ、黎もリビングに行きなよ」
「やだ」
「そんなにじっくり見られると落ち着かないし」
「そんなの知らない」
正面に向き直り鏡越しに会話をしていると、私の左肩に黎の顎先がのった。
「もえ」
「なに」
「行かないでよ」
やけに甘えたな声が耳元を擽る。