ベイビー•プロポーズ
「これ以上可愛くしないで。ボサボサのすっぴんで行って」
「そんなのドン引きされるでしょ」
「そんなんでドン引きする男なんてやめた方がいい。俺はどんなもえでも大丈夫」
肩に顔をのせたまま鏡の中の私を見つめる黎の瞳は真剣そのもの。鏡越しではあるもののその視線に耐えきれず、すーっと右へ顔ごと逸らした。
思ったことをそのまま口にする黎の素直さに、私はいつも調子を狂わされっぱなしだ。
「別に、デートとかじゃないから。ただ会ってご飯食べるだけ」
「男と女が2人で出掛けたらそれはデートなんじゃないの」
「それは違うでしょ。少なくとも今日のはデートではない」
「ふーん」
肩口と鏡越しから黎の圧を感じつつ、少しずつ取り分けた髪の毛をコテ先へと巻いていく。
「どこで会うの」
「秘密」
「……」
「だって場所言ったら黎そこまで来そうだもん」
「俺、今日バイト。だから行けない」
面倒くさがり屋の黎はDVDやCDのレンタルショップでバイトをしている。近頃はサブスクが主流だから、利用客も少ないだろうと見越して始めたらしい。
だけどゲームの販売なんかもやっているから思ったよりも忙しいらしく、よくぶちぶちと文句を言っている。