ベイビー•プロポーズ
「銀行員の彼氏とは1ヶ月前に別れたって優子さんに聞いてる」
「くそ……、お母さんめ」
碧葉にしろ、お母さんにしろ、私の情報は全て黎に筒抜けだ。家族といえど全く信用できない。
私の手からスマホを取り上げた黎はそれをバッグへ放り投げると、再び私へと手を伸ばす。絡めるでも握るでもなく、私の手首を柔く掴んだ。
「また彼氏作ろうとしてる?」
「そりゃあもちろん」
「俺がいるのにどうして?」
「な、だって、黎はそういうんじゃないし。黎は私にとって――」
「"弟みたいなもん"」
「……」
「もうそれ聞き飽きた」
私の言おうとしていた言葉を、黎はそっくりそのまま口にした。再び1歩先を歩き出した黎の顔は、私の位置からはよく見えない。
「もえの弟はあおだけでしょ」
「だから、弟みたいなもんだって…」
「俺はもえをお姉ちゃんだと思ったこと1度もない」
「……」
「ずっと、1人の女の子として、もえが好き」
不覚にも大きく脈が荒れる。
話し方に抑揚がなく、さらに表情まで乏しい黎。それを自分で分かっているからか、黎は自分の思いや感情を真っ直ぐストレートにぶつけてくる。