ベイビー•プロポーズ
別に、話しかけようとかそんなことは1ミリも思っていない。
今の心ここに在らず状態の私を見たら、私のことになると勘が鋭くなる黎なら絶対に何かを察するはずだから。
無意識のうちにここには来てしまったけど、とにかく黎には知られたくない。
少しでも働いている姿を見ることができたら、すぐに帰ろう。なんなら後ろ姿だけでもいいや。
よし、と小さく息を吐いて自動ドアを抜け店内へと足を踏み入れた。
入ってすぐ右手側にあるレジをそろりと確認すると、黎の姿はそこにはなく。若い男女4人がレジに立っている。
時刻はもう少しで17時になるというところ。シフトチェンジの時間なのか、高校生くらいの若い女子2人はそろそろ上がろうとしている雰囲気だった。
そういえば、黎のシフトは何時までなんだろう?
店内の奥までは進まず、入り口あたりをうろつきながら黎の姿を横目に探す。――と、新作DVDが置かれたスペースに立っている長身の男を発見した。
後ろ姿からも十分すぎるほど伝わってくる気怠げな雰囲気。白シャツと黒スキニーというラフな格好に紺色のエプロンをつけた黎は、頭をポリポリと搔きながら、DVDを棚へと返しているところだった。