ベイビー•プロポーズ

相変わらずの黎の姿になんだかほっとして。少しだけ心が軽くなったような気がした。


こちらに背を向けた状態の黎は私に気付く様子もなく、ゆったりとした動きで手を動かしている。


ここで振り向かれて気付かれても困るし、早く退散しよう。


外からは17時を知らせる夕焼け小焼けの歌が聞こえる。入口の方へ振り向こうとした時、「獅子堂くんが――」という声が聞こえた。


私の横を通り過ぎたのは、さっきまでレジにいた女の子2人組。


その場に立ち止まったまま、その子たちを目で追っていると、2人は黎の真横に並んだ。何かを話しかけているようだけど、黎は横に顔を向けることも体勢を変えることもない。


そのうち1人がその場を去り、黎とポニーテールの女の子は2人になった。


会話はこちらまで聞こえてこないけど、女の子はにこにことした可愛らしい笑顔を黎に向けている。


――あいつ、普通にモテるから


碧葉の声がふいに、脳内再生された。


遠目の横顔でも分かる。その子の花が咲くような笑顔からは、黎に恋をしていることが十分すぎるくらい伝わってきた。


私にはもう着れないようなミニ丈プリーツを揺らしながら、一生懸命何かを訴えているようにも見えるその子。


暑い寒いに関係なく、もうこの歳ではあんな丈のスカートは履けないし、生足だって晒せない。


若いなあ……としみじみ考えていると、その子の両手が黎の右腕をぎゅっと掴んだ。


あ……、と心の中で声が漏れたと同時。黎がその子へとようやく顔を向けようとしていて。


咄嗟の判断で、目の前のゲームが並べられた棚に身を隠してしまっていた。


……私、なにしてるんだろう。


少し和らいでいた虚しさがさらに強さを増して押し寄せてきて。そのまま回れ右をして、レンタルショップを後にした。
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