ベイビー•プロポーズ
「今日は俺が奢る」
「どうして?」
「この前給料日だったから」
「だーめ。黎が頑張って働いたお金なんだから自分のために使って」
「俺が頑張って稼いだ金だから俺の好きなように使う」
「私に使うのはだめ」
「もえ、しつこい」
「はあ?黎こそ!」
少しだけ張り詰めていた空気が、一気にいつもの空気感へと変わっていく。
「白玉クリームパフェ、食べていいよ」
「あ〜あのパフェ美味しいんだよねえ」
「シロップたっぷりのパンケーキも食べていいよ」
「ふふっ、そんなに食べきれないから!」
さっきまで上手く表情を作れずにいたのに、自然に笑えている自分に自分で驚いた。ささくれ立っていた心がみるみるうちに和らいでいく。
くすくすと笑う私を何も言わずに見つめる黎へ「ん?」と首を傾げると、真っ直ぐだった口角が緩く上げられた。
その表情があまりにも優しくて。弱っていた心の奥底にじーんと響いて、なんだか無性に泣きたくなった。
「もえ、かわいい」
「……またそれ」
「笑ってるもえが1番かわいい」
「……」
わざとむっとした顔を見せると、やや目尻を下げた黎に「かわいい」を連呼される。完全に通常運転に戻った黎に涙がすうっと引っ込むと共に、心がほっと安心した。
油断していたところ、空いていた右手がふわりと優しく包まれて。
「行こ、もえ」
その言葉にこくりと頷いて、その日初めて、私は黎の手を握り返した。