ベイビー•プロポーズ
いつ、どの角度から見ても常に澄んでいる純な瞳からは強い意志のようなものを感じた。
あの時の唐突な言葉はそういうことだったんだ、とここでようやく言葉の真意を知った。
「もえ、俺頑張った」
「う、うん。頑張ったね?」
「今回の期末で3位以内に入れたら、もえをデートに誘うってずっと決めてた」
「えっ、そうだったの?」
思わぬ答えに見上げたままの瞳を丸くした。
そっか、だから黎は珍しく勉強なんかしてたんだ。私とデートに行くために……。
"大会で優勝したら――して" とか "合格したら――して" というのはよくある話だけど、それを事前に言わず、きちんと結果を出した後に言ってくるあたり。黎らしいな、と思う。
濁りのない瞳を見つめながらそんなことをぼんやりと考えていると、後ろの方から物音が聞こえてきて。
「それ終わったら呼んで」
「うん」
キッチン脇の扉から出て行こうとしている碧葉の視線が、黎から私に移される。
ふっ、と口元を悪戯に歪め鼻で笑った碧葉に「は?」となった数秒後「……はっ!」となった。
今の私は黎の腕にすっぽりと埋まった状態。碧葉がすぐ近くにいるのに、この体勢を特に気に留めることなく、そのまま黎と会話をしてしまっていた。
「もえ、逃げないで」
「近いから、一旦、離れよう」
「今更遅いよ」
ほんと今更だ。黎の腕から逃げて距離を取ろうとしたけれど、当たり前にそれは阻止され、さらに腰元に回る腕には力が込められた。