ベイビー•プロポーズ
そう言葉を発してすぐ、黎の右手が再び私の手元に伸びてきた。
のだけれど、触れ合う直前ではっとしたように身体を固まらせた黎は、掌をぎゅっと握りしめその手を自分の方へと引き戻した。
「もえ、ごめん。嫌だった?」
「嫌とかじゃないよ。そうじゃないけど、ここ最近の黎のことが気にはなってた」
頂上にいた観覧車はゆっくりとした動きで下降していく。視線を外へと向けた黎の口が静かに開いた。
「もえ、俺、あと3か月したら18になる」
「うん。10月30日ね」
「結婚できる年齢にやっとなる」
「……うん」
「18になるまでにもえの彼氏になりたいってずっと思ってたから。それが迫ってきて、焦って、余裕なくなってた」
ごめん、と弱弱しく吐き出した黎は未だ掌をグーの形に握ったまま。その両手を見つめ、黎にどんな言葉を返そうか頭をフル回転させていると続けざまに黎が口を開いた。
「俺の心はずっともえのものだけど、もえの心は違うから不安」
「……」
「もえは可愛いし、モテるし、……他の人と結婚するかもしれない」
「……」
「うわ。やだ、無理、絶対やだ」
自分の言葉にがっくりと肩を落とした黎は、俯いた状態で「まじで無理…」と掠れた声で零した。