ベイビー•プロポーズ
完全に目の覚めた私は、少し前屈みになりながら黎の肩を大きく揺らした。
「黎!」とその名前を3度呼んだところでようやく、「んー…」と掠れた唸り声を上げた黎はゆったりと上半身を起こした。
うつらうつらとしていた焦点が徐々に定まってきて、私の瞳とかちっと合わさると、「おはよ、もえ」と気の抜けてしまいそうな声が落とされた。
「ねえ、何してるの?」
「もえの顔見たいなって思ってずっと寝顔見てた。そしたらだんだん眠くなってきて、寝てた」
「……いつからいたの?」
「家に着いたのは7時くらい」
何でそんな早くに家に?
そう黎に質問する前に、「黎、お前起きてる?」とドアの向こうから碧葉の声が聞こえてきた。
「んー起きた」
「そろそろ行く?」
「んー」
「萌葉、開けていい?」
「うん、どうぞ」
私の部屋へと入ってきた碧葉もまた、制服を身に着けていて。「ねえ、今日何かあるの?」と碧葉に尋ねると「文化祭の準備。まじでだっるい」と小さな溜息と共に曇った声が返ってきた。
「あ~そっか。もう来週だもんね」
「今日と明日が最後の土日だから追い込みなんだと。夏休み最終日なのにあり得なくね?」
「でもちゃんと参加するの偉いじゃん。碧葉も黎もそういうのサボる側かと思ってた」
「だってもえ、来てくれるんでしょ」
碧葉との会話に混ざってきた黎の腕が私のほうへと伸びてきて、右腕を軽く握られた。