ベイビー•プロポーズ
「……うん。行くけども」
「だから頑張る。もえに楽しんでほしいから」
「私が行かなかったら?」
「準備なんてやらない。去年だってそうだったし」
一昨年はちょうどバド部での旅行と被ってしまって、昨年は仕事で、2年連続文化祭に行くことができていなかった。それを伝えたときの黎は、目で見てはっきりと分かるくらいしょんぼりとしてたっけ。
「萌葉のことになると別人になるのまじでうけるわ」
「……でも、眠い、動けない、」
「ちょい遅刻してくくらいでもいいだろ。なんなら教室で寝てりゃいいじゃん」
「んー」
「黎が参加するだけで女子達のテンションが分かりやすく上がるしな。お前は何もしなくてもただ教室にいれば十分」
「それはあおも同じじゃん」
碧葉は黎へ言葉を投げかけていると見せかけて、愉しそうに細めた目を私へと向けている。実質今の言葉は私宛てのものだ。『黎はもてるんだよ』と、遠回しに攻撃を仕掛けてきたんだろう。
その挑発に乗ってたまるもんか。
何も気にしないふりをしながら「2人のクラスは何やるの?」と返すと、その問いに答えてくれたのは再び顔を伏せた黎。
「メイドと執事喫茶」
「う、うわ~王道のやつだ~」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「えっ、その台詞を黎たちが言うの?」
「俺はもえにしか言わないけどね」
余程眠いのか、いつも以上にゆったりとして舌っ足らずな話し方の黎は「もえ、だけ……」とくぐもった声を出してすぐ、寝息を立て始めた。