愛すべきマリア
「マリア? それに母上まで」
ニコニコと笑いながら、ポカンと口を開けたアラバスの膝に座るマリア。
「お……おい!」
「遊ぼう? アシュ」
「ちょっと待て! 俺は仕事中だぞ」
それに異を唱えたのは王妃陛下だった。
「何が仕事中ですか! 見るからにティータイムのようだけれど? それにどういうことなのかしら? お菓子をこんなに散らかして! マリアと一緒に幼児マナーの授業を受けさせないといけないわ」
「は……母上……これは……」
王妃の援護射撃を始めるマリア。
「そうだよ、アシュ。お菓子はひとつじゅちゅ、ゆっくり食べないとダメなんだもん。それに、お菓子で遊ぶのはもっとイケない事なんだもん!」
「お菓子で遊ぶって……では料理で遊ぶのは良いのか?」
全員が『突っ込むのはそこじゃない』と思ったが、誰も口を開かなかった。
「お料理でもダメなの! 食べるものはおもちゃじゃないよ?」
アラバスがマリアの髪を撫でながら、ニヤッとアイロニカルな笑みを浮かべる。
「料理もダメだと? では、昨夜お前がわざと茸のソテーを落としたのは何なのだ?」
「うっ……」
言い淀むマリア。
「あれは……落ちたんだよ? ホントだよ?」
「そうかぁ?」
「そうだもん!」
アラバスの膝の上で体をずらし、声の主の方に向き直って足をバタつかせるマリア。
「おい! そこで……動くな」
「なあぜ?」
「なぜって……どうしてもだ! あっ……だから動いちゃダメだって」
不思議そうな顔のマリアを手招きしながらトーマスが言う。
「それはいろいろと、男の事情というものだ。マリアはこちらに座りなさい」
アラバスはマリアを離すまいと手を伸ばしたが、一歩遅かった。
「さあ、兄さまの横に来なさい。良い子だね、マリアは」
「うん、マリアは良い子なの。だから遊ぼう?」
「遊びたいけれど今はダメなんだ。夕食の後で絵本を読んであげよう。ね? わかった?」
マリアは返事をせずに王妃陛下の顔を見た。
チッと小さな音をさせた王妃の口が開く。
「まあ、仕方がないわね。でもそのお菓子はちゃんと四人で全部食べなさい」
使用人達が顔を真っ赤にして笑いを堪えている。
「分かったら返事!」
「はいっ!」
返事をしたのはカーチスだけだ。
王妃がギロッと俯く三人を見回す。
「へ・ん・じ!」
「はい」
「はい」
「はい」
満足した王妃がマリアの方に手を伸ばすと、ニコッと笑ったマリアがその手をとった。
「さあ! 見ていてあげるから早く食べなさい。ねえ、そこのあなた。お茶を淹れなおしてやってくれる? クッキーもタルトタタンも喉に詰まり易いから」
王妃に命じられた侍女が恭しく頷いてお茶の準備を始めた。
優しいのか厳しいのか分からない王妃陛下に見張られている四人は、渋々とテーブルの上に散らばっているお菓子に手を伸ばす。
「本当に勿体ないわ! ねえ? マリア」
「うん、もっちぇないねえ」
その言葉にアレンがパッと顔を上げた。
「お! マリアちゃん! なんだか祝福の予感がするぞ? 今夜あたりかもしれない。早めにお風呂に入って食事も済ませておいた方がいいかもしれないよ?」
マリアが驚いた顔でトーマスを見た。
「あ……ああ……そうだな……なんだかそんな雰囲気?」
王妃陛下が満面の笑みで言う。
「今夜なの? やっと……やっとなのね……助かったわ」
使用人たちの間にも安堵の空気が流れる。
アラバスが自分の膝から逃げたマリアを悔しそうな顔で見た。
「今日の夕食はマリアの大好きなチキンソテーだが茸のソースらしいぞ」
「ゲッ……」
王子然とした兄のあまりにも幼稚な復讐に、せっかく口に入れたクッキーを噴き出してしまったカーチスだった。
ニコニコと笑いながら、ポカンと口を開けたアラバスの膝に座るマリア。
「お……おい!」
「遊ぼう? アシュ」
「ちょっと待て! 俺は仕事中だぞ」
それに異を唱えたのは王妃陛下だった。
「何が仕事中ですか! 見るからにティータイムのようだけれど? それにどういうことなのかしら? お菓子をこんなに散らかして! マリアと一緒に幼児マナーの授業を受けさせないといけないわ」
「は……母上……これは……」
王妃の援護射撃を始めるマリア。
「そうだよ、アシュ。お菓子はひとつじゅちゅ、ゆっくり食べないとダメなんだもん。それに、お菓子で遊ぶのはもっとイケない事なんだもん!」
「お菓子で遊ぶって……では料理で遊ぶのは良いのか?」
全員が『突っ込むのはそこじゃない』と思ったが、誰も口を開かなかった。
「お料理でもダメなの! 食べるものはおもちゃじゃないよ?」
アラバスがマリアの髪を撫でながら、ニヤッとアイロニカルな笑みを浮かべる。
「料理もダメだと? では、昨夜お前がわざと茸のソテーを落としたのは何なのだ?」
「うっ……」
言い淀むマリア。
「あれは……落ちたんだよ? ホントだよ?」
「そうかぁ?」
「そうだもん!」
アラバスの膝の上で体をずらし、声の主の方に向き直って足をバタつかせるマリア。
「おい! そこで……動くな」
「なあぜ?」
「なぜって……どうしてもだ! あっ……だから動いちゃダメだって」
不思議そうな顔のマリアを手招きしながらトーマスが言う。
「それはいろいろと、男の事情というものだ。マリアはこちらに座りなさい」
アラバスはマリアを離すまいと手を伸ばしたが、一歩遅かった。
「さあ、兄さまの横に来なさい。良い子だね、マリアは」
「うん、マリアは良い子なの。だから遊ぼう?」
「遊びたいけれど今はダメなんだ。夕食の後で絵本を読んであげよう。ね? わかった?」
マリアは返事をせずに王妃陛下の顔を見た。
チッと小さな音をさせた王妃の口が開く。
「まあ、仕方がないわね。でもそのお菓子はちゃんと四人で全部食べなさい」
使用人達が顔を真っ赤にして笑いを堪えている。
「分かったら返事!」
「はいっ!」
返事をしたのはカーチスだけだ。
王妃がギロッと俯く三人を見回す。
「へ・ん・じ!」
「はい」
「はい」
「はい」
満足した王妃がマリアの方に手を伸ばすと、ニコッと笑ったマリアがその手をとった。
「さあ! 見ていてあげるから早く食べなさい。ねえ、そこのあなた。お茶を淹れなおしてやってくれる? クッキーもタルトタタンも喉に詰まり易いから」
王妃に命じられた侍女が恭しく頷いてお茶の準備を始めた。
優しいのか厳しいのか分からない王妃陛下に見張られている四人は、渋々とテーブルの上に散らばっているお菓子に手を伸ばす。
「本当に勿体ないわ! ねえ? マリア」
「うん、もっちぇないねえ」
その言葉にアレンがパッと顔を上げた。
「お! マリアちゃん! なんだか祝福の予感がするぞ? 今夜あたりかもしれない。早めにお風呂に入って食事も済ませておいた方がいいかもしれないよ?」
マリアが驚いた顔でトーマスを見た。
「あ……ああ……そうだな……なんだかそんな雰囲気?」
王妃陛下が満面の笑みで言う。
「今夜なの? やっと……やっとなのね……助かったわ」
使用人たちの間にも安堵の空気が流れる。
アラバスが自分の膝から逃げたマリアを悔しそうな顔で見た。
「今日の夕食はマリアの大好きなチキンソテーだが茸のソースらしいぞ」
「ゲッ……」
王子然とした兄のあまりにも幼稚な復讐に、せっかく口に入れたクッキーを噴き出してしまったカーチスだった。