愛すべきマリア
「狸のことは一旦置いておこう。本人も療養中で動けないし、もしシラーズから何か言って来たとしても、調査中だと言えば時間も稼げる。まずは西の国だ」
アレンの言葉に全員が頷いた。
アラバスが声を出す。
「カーチス、今聞いたことを国王陛下と王妃陛下に報告してきてくれ」
「わかった」
カーチスが立ち上がって部屋を出た。
トーマスが口を開く。
「西の国はシラーズとうちで戦争をさせたかったのだろう」
「ああ、シラーズはバッディと戦争中だ。同時に二か国とやり合うとなると、ものすごく疲弊するだろうな。そこへつけこむ気だったのだろう」
アレンが肩を竦めた。
「それにしても悪手だよね。敵の敵は味方だ。うちとバッディが手を結ぶとは考えなかったのだろうか」
「手を結ばないという確信があったんじゃないか?」
「バッディとうちの繋がりなんて、一般貿易くらいだぜ? すこぶる友好的とは言わないが、険悪なわけでもないだろ?」
「なんだろうな……うちとバッディの繋がり……」
トーマスが立ち上がる。
「第一王女だ。彼女は今、ワンダリアに滞在している」
「あ……なるほど」
アレンが立ち上がり、外で待機している騎士を呼んだ。
「王城に滞在中のバッディ王国第一王女殿下の警備を強化しろ。大至急だ! 一級警備態勢をとれ!」
騎士が駆け出す。
「どうなっているんだ? まさか王女もグルか?」
トーマスが頷いた。
「有り得るな。最初から胡散臭いほどつき纏ってきたんだよ、彼女」
アレンがニヤつく。
「なるほどね、おかしいと思ったんだよ。お前が俺よりモテるはずないじゃん? そうかぁ、そうだよね。うんうん、納得だ。やっと眠れるよ」
アラバスが二人の小競り合いを無視して続ける。
「ということは、王城に入ることも予定通りということか。狙いは何だ?」
トーマスが暫し考えてから口を開いた。
「王城に滞在している間に、事件にまき込まれるとすると、それは紛れもなく王家の責務となる。それだけで十分だろう。なるほど……侍女やメイドや料理人まで連れてきたくせに、すんなりと王城へ移ることを了承したのは、そういう魂胆か」
「そう言えば、連れてきた使用人たちはどうしてるんだ?」
「うちの離れに滞在してるよ。一応我が家の騎士を張り付かせているが、まったく怪しい動きは無い」
「ということは、事情は知らないんだな。私財は全て現金化し、使用人まで連れて来た……かなり計画的だな」
アレンがトーマスに言った。
「そうだ! なあ、トーマス。お前、本当に結婚しちゃえよ。婚約期間なんてすっ飛ばして、すぐに式を挙げて一緒に住もうと持ち掛けろ」
無言で表情を消すトーマス。
「僕たちの予想が的中しているなら、きっとゴネるはずだ。だって、彼女は西の国に行く予定だからね。なんなら『初夜が楽しみです。覚悟しておいてください』くらい言ってやれ! 貞操の危機を感じた王女は必ず動く」
「嫌だ……元々説得して帰国させるつもりだったんだ。手なんて出してみろ、責任を取らなくちゃいけなくなってしまう」
「万が一、王女が喜ぶようなら年貢の納め時だと思って諦めて娶れ。なかなか美人だし良いじゃん。もし嫌がるならビンゴってことだ」
ずっと黙っていたアラバスが口を開いた。
「これで繋がったな。大商人と言われるほどの人物が、いくら社交界だけの噂だとしても知らなかったというのは、おかしいと思っていたんだ。もしかしたら、アスター達を唆していたのも西の国かもしれんな」
「ああ、そうかもしれない。僕の家名を聞いただけで、噂を思い出すというのも無理があるな。潰された貴族家には気の毒としか言いようが無いが。しかし、なぜ僕がバッディに行くと読んだのだ?」
「読んだというより、どう転んでもお前が行くしかない状況を作るつもりだったのかもしれん。万が一アレンが行っていたとしたら、別の方法を用意していたという可能性もある。潰れた貴族家のことは気にするな。間違いなくグルだろうぜ。踊らされたのはバカなお前の親父だよ。まあそういうことで、トーマス。今から行ってきてくれ」
トーマスが不思議そうな顔でアラバスを見た。
「どこへ?」
「ダイアナにプロポーズだろ?」
「え……マジで」
アレンが真っ赤なバラの花束を最速で用意するよう使用人に命じている。
「無茶だ……僕の純潔が……」
ほとんど同時に二人が声を出す。
「お前、純潔なの?」
トーマスが横を向いた。
「いや……すまん。今のは盛った。マリアには内緒にしてくれ」
なんとも言えない空気が流れる。
「兄上、それに二人も。陛下がお呼びだ」
三人は立ち上がり、カーチスと共に国王の執務室へと急いだ。
アレンの言葉に全員が頷いた。
アラバスが声を出す。
「カーチス、今聞いたことを国王陛下と王妃陛下に報告してきてくれ」
「わかった」
カーチスが立ち上がって部屋を出た。
トーマスが口を開く。
「西の国はシラーズとうちで戦争をさせたかったのだろう」
「ああ、シラーズはバッディと戦争中だ。同時に二か国とやり合うとなると、ものすごく疲弊するだろうな。そこへつけこむ気だったのだろう」
アレンが肩を竦めた。
「それにしても悪手だよね。敵の敵は味方だ。うちとバッディが手を結ぶとは考えなかったのだろうか」
「手を結ばないという確信があったんじゃないか?」
「バッディとうちの繋がりなんて、一般貿易くらいだぜ? すこぶる友好的とは言わないが、険悪なわけでもないだろ?」
「なんだろうな……うちとバッディの繋がり……」
トーマスが立ち上がる。
「第一王女だ。彼女は今、ワンダリアに滞在している」
「あ……なるほど」
アレンが立ち上がり、外で待機している騎士を呼んだ。
「王城に滞在中のバッディ王国第一王女殿下の警備を強化しろ。大至急だ! 一級警備態勢をとれ!」
騎士が駆け出す。
「どうなっているんだ? まさか王女もグルか?」
トーマスが頷いた。
「有り得るな。最初から胡散臭いほどつき纏ってきたんだよ、彼女」
アレンがニヤつく。
「なるほどね、おかしいと思ったんだよ。お前が俺よりモテるはずないじゃん? そうかぁ、そうだよね。うんうん、納得だ。やっと眠れるよ」
アラバスが二人の小競り合いを無視して続ける。
「ということは、王城に入ることも予定通りということか。狙いは何だ?」
トーマスが暫し考えてから口を開いた。
「王城に滞在している間に、事件にまき込まれるとすると、それは紛れもなく王家の責務となる。それだけで十分だろう。なるほど……侍女やメイドや料理人まで連れてきたくせに、すんなりと王城へ移ることを了承したのは、そういう魂胆か」
「そう言えば、連れてきた使用人たちはどうしてるんだ?」
「うちの離れに滞在してるよ。一応我が家の騎士を張り付かせているが、まったく怪しい動きは無い」
「ということは、事情は知らないんだな。私財は全て現金化し、使用人まで連れて来た……かなり計画的だな」
アレンがトーマスに言った。
「そうだ! なあ、トーマス。お前、本当に結婚しちゃえよ。婚約期間なんてすっ飛ばして、すぐに式を挙げて一緒に住もうと持ち掛けろ」
無言で表情を消すトーマス。
「僕たちの予想が的中しているなら、きっとゴネるはずだ。だって、彼女は西の国に行く予定だからね。なんなら『初夜が楽しみです。覚悟しておいてください』くらい言ってやれ! 貞操の危機を感じた王女は必ず動く」
「嫌だ……元々説得して帰国させるつもりだったんだ。手なんて出してみろ、責任を取らなくちゃいけなくなってしまう」
「万が一、王女が喜ぶようなら年貢の納め時だと思って諦めて娶れ。なかなか美人だし良いじゃん。もし嫌がるならビンゴってことだ」
ずっと黙っていたアラバスが口を開いた。
「これで繋がったな。大商人と言われるほどの人物が、いくら社交界だけの噂だとしても知らなかったというのは、おかしいと思っていたんだ。もしかしたら、アスター達を唆していたのも西の国かもしれんな」
「ああ、そうかもしれない。僕の家名を聞いただけで、噂を思い出すというのも無理があるな。潰された貴族家には気の毒としか言いようが無いが。しかし、なぜ僕がバッディに行くと読んだのだ?」
「読んだというより、どう転んでもお前が行くしかない状況を作るつもりだったのかもしれん。万が一アレンが行っていたとしたら、別の方法を用意していたという可能性もある。潰れた貴族家のことは気にするな。間違いなくグルだろうぜ。踊らされたのはバカなお前の親父だよ。まあそういうことで、トーマス。今から行ってきてくれ」
トーマスが不思議そうな顔でアラバスを見た。
「どこへ?」
「ダイアナにプロポーズだろ?」
「え……マジで」
アレンが真っ赤なバラの花束を最速で用意するよう使用人に命じている。
「無茶だ……僕の純潔が……」
ほとんど同時に二人が声を出す。
「お前、純潔なの?」
トーマスが横を向いた。
「いや……すまん。今のは盛った。マリアには内緒にしてくれ」
なんとも言えない空気が流れる。
「兄上、それに二人も。陛下がお呼びだ」
三人は立ち上がり、カーチスと共に国王の執務室へと急いだ。