愛すべきマリア
門番からの報告に、一番に駆け出したのはアレンだった。
その後からアラバスとトーマスが続く。
「無事に戻ったか」
崩れ落ちるように馬から降りたカーチスに駆け寄るアレン。
「アレン……マジで疲れた……」
「まだだ! まだ今はお客人が優先だぞ」
心配で仕方がない癖にカーチスを𠮟咤するアレン。
へにゃっと笑いながらカーチスが頷いて見せた。
「失礼しました。お互いに顔見知りでしょうから、ここでの紹介は省きます。何よりまず湯あみと着替えですね。兄上、後はよろしく頼みます」
アラバスが頷いて進み出た。
「ようこそ。すでに準備はできています。すぐに客間へご案内いたしましょう」
トーマスが二人の馬を侍従に引き渡しながらカーチスに声を掛けた。
「途中で何かあったのか?」
「うん、後で詳しく話すよ。今はその子たちも休ませてやらないとね」
「ああ、そうだな。傷の手当てもしてやらねばな」
カーチスが乗っていた馬の鞍には矢を射かけられたような傷があり、馬の皮膚からもうっすらと血が滲んでいた。
「カーチスを頼む」
トーマスの声にアレンが頷き、カーチスに肩を貸した。
「見直したぞ。よく頑張ったな」
ドロドロに汚れた顔をくしゃくしゃにしながら、カーチスが嬉しそうに笑う。
それから一時間後、急遽準備された会議室に集まったのは、ワンダリア王国夫妻と第一王子夫妻、そして湯あみをしてこざっぱりとした第二王子、後はラングレー宰相と第一王子側近のアレンとトーマス、そしてバッディ王国新王とシラーズ王国新王の十名だった。
口火を切ったのはアラバスだ。
「お疲れさまでした。ご無事で何よりです」
それを受けたシラーズ王国新王が立ち上がる。
「なんとも慌ただしい訪問となり、申し訳ありません。私がシラーズ王国第十三代国王となりましたサマセット・シラーズでございます。若輩者ではございますが、今後ともよろしくお導き下さい」
バッディ王がすぐに立ち上がった。
「私はバッディ王国第十四代国王となりましたハミエル・ロンダート・バッディです。以後お見知りおき願います」
二人は歩み寄って握手をした。
「なかなか直接お会いすることもなく、今日まで来てしまいましたが、かなり多くの誤解が生じているようです」
「どうもそのようですね。やはり直接お話をするのが一番のようだ」
アラバスが声を出す。
「時間もありませんので、早速本題に入りましょう。本日の目的は大きく二つです。第一はシラーズ王国とバッディ王国の戦争の終結、そして第二はその元凶となった西の国への対応です。議事進行は我が国の宰相であるラングレー公爵がおこないます」
全員が頷いた。
立ち上がったアレンとトーマスが会議資料を配っていく。
「言語は共通語を使用しました」
そう言いながら立ち上がったのは、議事進行を任されたラングレー公爵だ。
「まずは戦争終結についてですが……」
会議は粛々と進む。
「異議なしです。互いの損害状況もほぼ同じとなれば、補償問題も相殺ということで良いと思います」
バッディ王が発言すると、シラーズ王も大きく頷いた。
「私も異議はありません。戦争といっても直接衝突があったのは一部地域だけですし、民間人への被害も家屋の損傷程度ですからね」
ワンダリア国王が口を開く。
「ではこの協定について、私がワンダリア国王として見届け人になりましょう。しかし、今日の会合は秘密裏なトップ会談だ。対外的にもそれぞれの責任者が集まって、終戦協定を締結することが望ましいと考えますが、いかがでしょうか?」
二人の新王が深く頷いた。
「ではアラバス、この件はお前に任せよう」
アラバスが深く頭を下げて了承の意を伝えた。
全員が拍手をする中、シラーズとバッディの両王が固い握手を交わす。
席に戻ったシラーズ王が発言の許可を求めた。
「それにしても、なぜ戦争するまで拗れたのでしょうか。恥ずかしながら私は王太子と呼ばれつつも、この戦争に関しては蚊帳の外に置かれていましてね。詳細を知らないのですよ」
バッディ王が何度も頷いた。
「実は私も同じようなものなのです。父王に問いただしても要領を得ず、困っておりました」
ワンダリア王が聞く。
「しかしお二国の間では婚姻の話まで出ていたのでしょう?」
「そのことについては私の方からご説明申し上げます。と申しましても、我が国が第三者視点で集めた情報ですので、その点はご了承ください」
そう言ったラングレー宰相の声に全員が頷くと、アレンが衛兵に合図を送る。
会議の間に入ってきたのはシラーズとワンダリアの『草』だった者たちだ。
シラーズ王が顔を顰めながら声を出した。
「久しいな、アダム・カード。まだ生かして貰えていたとはな」
カード元宰相がその場に正座をした。
「ご無沙汰いたしております。無事に即位なさったとのこと、心よりお慶び申し上げます」
カードの横で同じように正座をしたのは、彼の息子であるドナルドだ。
「お初にお目にかかります。息子のドナルドでございます」
シラーズ王が顔を顰めた。
「怪我をしているのか?」
「はい……」
トーマスがシレッと横を向いた。
アレンが慌てて声を出す。
「こちらに控えておりますのは、我がワンダリアに潜んでおりました『草の者』で、王族の執事長をしておりました」
元執事長が声を出した。
「お初にお目にかかります。私はニック・オスロと申します。横に居りますのが長男のシーリス、その隣が次男のリーベルでございます」
シラーズ王が目を見開く。
「親子三人とは……なんとも罪深いことだ。長男はシーリスと言ったか? お前は腕を失くしたのだな。まあ、命があるだけでも良しとせねばなるまい」
再びトーマスが横を向いた。
「全てをお話しいたします」
草と呼ばれる者たちは、粛々と自分たちの役割と実行したことを告白していく。
その後からアラバスとトーマスが続く。
「無事に戻ったか」
崩れ落ちるように馬から降りたカーチスに駆け寄るアレン。
「アレン……マジで疲れた……」
「まだだ! まだ今はお客人が優先だぞ」
心配で仕方がない癖にカーチスを𠮟咤するアレン。
へにゃっと笑いながらカーチスが頷いて見せた。
「失礼しました。お互いに顔見知りでしょうから、ここでの紹介は省きます。何よりまず湯あみと着替えですね。兄上、後はよろしく頼みます」
アラバスが頷いて進み出た。
「ようこそ。すでに準備はできています。すぐに客間へご案内いたしましょう」
トーマスが二人の馬を侍従に引き渡しながらカーチスに声を掛けた。
「途中で何かあったのか?」
「うん、後で詳しく話すよ。今はその子たちも休ませてやらないとね」
「ああ、そうだな。傷の手当てもしてやらねばな」
カーチスが乗っていた馬の鞍には矢を射かけられたような傷があり、馬の皮膚からもうっすらと血が滲んでいた。
「カーチスを頼む」
トーマスの声にアレンが頷き、カーチスに肩を貸した。
「見直したぞ。よく頑張ったな」
ドロドロに汚れた顔をくしゃくしゃにしながら、カーチスが嬉しそうに笑う。
それから一時間後、急遽準備された会議室に集まったのは、ワンダリア王国夫妻と第一王子夫妻、そして湯あみをしてこざっぱりとした第二王子、後はラングレー宰相と第一王子側近のアレンとトーマス、そしてバッディ王国新王とシラーズ王国新王の十名だった。
口火を切ったのはアラバスだ。
「お疲れさまでした。ご無事で何よりです」
それを受けたシラーズ王国新王が立ち上がる。
「なんとも慌ただしい訪問となり、申し訳ありません。私がシラーズ王国第十三代国王となりましたサマセット・シラーズでございます。若輩者ではございますが、今後ともよろしくお導き下さい」
バッディ王がすぐに立ち上がった。
「私はバッディ王国第十四代国王となりましたハミエル・ロンダート・バッディです。以後お見知りおき願います」
二人は歩み寄って握手をした。
「なかなか直接お会いすることもなく、今日まで来てしまいましたが、かなり多くの誤解が生じているようです」
「どうもそのようですね。やはり直接お話をするのが一番のようだ」
アラバスが声を出す。
「時間もありませんので、早速本題に入りましょう。本日の目的は大きく二つです。第一はシラーズ王国とバッディ王国の戦争の終結、そして第二はその元凶となった西の国への対応です。議事進行は我が国の宰相であるラングレー公爵がおこないます」
全員が頷いた。
立ち上がったアレンとトーマスが会議資料を配っていく。
「言語は共通語を使用しました」
そう言いながら立ち上がったのは、議事進行を任されたラングレー公爵だ。
「まずは戦争終結についてですが……」
会議は粛々と進む。
「異議なしです。互いの損害状況もほぼ同じとなれば、補償問題も相殺ということで良いと思います」
バッディ王が発言すると、シラーズ王も大きく頷いた。
「私も異議はありません。戦争といっても直接衝突があったのは一部地域だけですし、民間人への被害も家屋の損傷程度ですからね」
ワンダリア国王が口を開く。
「ではこの協定について、私がワンダリア国王として見届け人になりましょう。しかし、今日の会合は秘密裏なトップ会談だ。対外的にもそれぞれの責任者が集まって、終戦協定を締結することが望ましいと考えますが、いかがでしょうか?」
二人の新王が深く頷いた。
「ではアラバス、この件はお前に任せよう」
アラバスが深く頭を下げて了承の意を伝えた。
全員が拍手をする中、シラーズとバッディの両王が固い握手を交わす。
席に戻ったシラーズ王が発言の許可を求めた。
「それにしても、なぜ戦争するまで拗れたのでしょうか。恥ずかしながら私は王太子と呼ばれつつも、この戦争に関しては蚊帳の外に置かれていましてね。詳細を知らないのですよ」
バッディ王が何度も頷いた。
「実は私も同じようなものなのです。父王に問いただしても要領を得ず、困っておりました」
ワンダリア王が聞く。
「しかしお二国の間では婚姻の話まで出ていたのでしょう?」
「そのことについては私の方からご説明申し上げます。と申しましても、我が国が第三者視点で集めた情報ですので、その点はご了承ください」
そう言ったラングレー宰相の声に全員が頷くと、アレンが衛兵に合図を送る。
会議の間に入ってきたのはシラーズとワンダリアの『草』だった者たちだ。
シラーズ王が顔を顰めながら声を出した。
「久しいな、アダム・カード。まだ生かして貰えていたとはな」
カード元宰相がその場に正座をした。
「ご無沙汰いたしております。無事に即位なさったとのこと、心よりお慶び申し上げます」
カードの横で同じように正座をしたのは、彼の息子であるドナルドだ。
「お初にお目にかかります。息子のドナルドでございます」
シラーズ王が顔を顰めた。
「怪我をしているのか?」
「はい……」
トーマスがシレッと横を向いた。
アレンが慌てて声を出す。
「こちらに控えておりますのは、我がワンダリアに潜んでおりました『草の者』で、王族の執事長をしておりました」
元執事長が声を出した。
「お初にお目にかかります。私はニック・オスロと申します。横に居りますのが長男のシーリス、その隣が次男のリーベルでございます」
シラーズ王が目を見開く。
「親子三人とは……なんとも罪深いことだ。長男はシーリスと言ったか? お前は腕を失くしたのだな。まあ、命があるだけでも良しとせねばなるまい」
再びトーマスが横を向いた。
「全てをお話しいたします」
草と呼ばれる者たちは、粛々と自分たちの役割と実行したことを告白していく。