The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
全く、何でこんな愛想のない女を落とさなければならないのか。

高飛車な女は好きだが、ここまで融通が利かないのは逆に扱いにくい。

それでも、これもお仕事だ。やらなくては。

「送りますから、一緒に帰りましょう?」

「…良いけど」

「ありがとうございます」

出来るだけ爽やかな笑顔を心掛けながら、ハバナの隣を歩く。

歩きつつ、何と切り出そう、と考えていた。

何と言えば彼女は…。

「…ハバナさん、実はお話があるんですけど」

「何?」

「えっと…驚かないで、聞いてくださいね」

「…」

そのときになって初めて、ハバナは俺に対して表情を変えた。

酷く迷惑そうな顔になった。

その容姿故にモテる彼女は、俺が何を言おうとしているのか、大体察したのだろう。

「悪いけど。私、彼氏とか、色恋に興味はないから。そういうのは困るわ」

なんとまぁ。身も蓋もない。

断るにしても、もう少し言い方というものがあろうに。

でも、そのクールなところ、俺は嫌いじゃない。

滾る。

「そう言わないで…話だけでも聞いてくださいよ」

「聞くのは良いけど、私の気持ちは変わらないわ」

「誰か、好きな人でもいるんですか?」

「いいえ、元々恋愛に興味がないだけ」

「それはそれは…。人生損しますよ。恋が世界を変えるってのは本当ですから」

実際、俺もそうだった。

いつの時代も、人を狂わせるのは愛。

そして、それと相反する感情。

…憎しみ、という奴だ。

俺は笑った。ルナニアではない、ルレイアとしての笑みを浮かべた。

『青薔薇連合会』幹部、ルレイア・ティシェリーとしての笑みを。

「あなたが欲しいんです。駄目ですか?」

「駄目よ。あなたのことは好きじゃない。他の誰も」

「それは残念…。まるで狼ですね。一匹狼…。いや、あなたは狼ではなく、猫でしたね」

「…何を言ってるの」

ハバナの厳しい目が、射抜くように俺を睨んだ。

「哀れで、惨めで、厄介な孤高の存在。箱庭から追放された迷い猫。『シュレディンガーの猫』。随分大層な名前をつけたものですね?」

俺がそう言った瞬間、ハバナは制服の内側に仕込んでいた拳銃を、俺の喉元に向けた。
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